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居候高校生、主夫になる〜娘3人は最強番長でした〜  作者: 蓮田ユーマ
春夏終わって秋冬編
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母親。

「う〜む、マスクだけでもしておくべきだったか……」


 おそらく叶の風邪をもらってしまったのだろう。叶が申し訳無さそうに謝ってきたけれど、予防していなかった俺が悪い。

 ひとまず今日は俺も療養に徹する事に。幸いまだ風邪のひき始めで、今から栄養のあるものを食べてしっかりと睡眠を取れば問題なく回復できそうだ。


(ええと、とりあえず元気になったらマフラーとか編み始めて……)


 ただ横になっているのも確かに暇ではあるが、こんな風に昼間から眠っていることも久しぶりだ。これからしたい事ややらないといけないことを計画できるいい時間かもしれない。少し頭はボンヤリとしているが。


 少しだけうたた寝のように意識が飛び、ふと気づけば一時間程度が経っている。やはり昼間からたっぷりとは眠りにくいなとちょっと困っていると、コンコンとノックの音。


「楓太くん、調子はどう?」

「真奈美さん。大丈夫ですよ、これくらい」


 たまたま仕事が休みだった真奈美さんが様子を見に来てくれた。その腕の中に、ヨーグルトやスポーツ飲料水。わざわざ持ってきてくれたのだろう、俺はありがたく受け取った。


「無理しちゃ駄目だからね」

「本当、大丈夫ですよ。でもありがとうございます」


 ふと、真奈美さんの事を考えてみた。

 3姉妹たちの母親で、あの峰十郎さんの奥さん。

 綺麗で包容力のある人だ。

 

 でもこの人に関しては、知らないことがまだまだある。


「そういえば……真奈美さん、父さんとはいつ知り合ったんですか?」


 何気ない雑談。眠っていたほうがいいのだろうが、真奈美さんも咎めずに答えてくれた。


たけるとは高校生の時だったかな。あの頃はいろいろあったね。卒業してからはあまり会わなくなってたけど、都合を見て顔合わせてたよ」

「そうだったんですね。……最近は、連絡取ってますか?」


 実を言うと、この言葉には裏がある。

 俺自身、時折父さんに連絡をしようと電話を掛けるが一向に出る気配がなく、困っていたところだったんだ。


「いやぁ、実は連絡つかないのよね。まぁ、便りがないのは良い便りとも言うし、忙しいだけだと思うよ」

「そうですね……あんまり無理してないといいけど」


 昔から父さんは本当に働き詰めで、家にもあまり帰ってはいなかった。

 ……今思えば、誰かと風呂に入るなんて、ここに来てからが初めてかもしれない。父さんとは、子供の時でさえそんな事がなかった。


「それは、楓太くんも同じ。……よく食べてよく眠る。そうすれば、大抵の病気には勝てるのよ」


 真奈美さんの手のひらがつめたい。熱くなったおでこには気持ちが良かった。


「これからまた上がったりしそうだね。何かあったらすぐ言うのよ」

「あぁ……」


 ──ふと、顔も覚えていない母さんのことを想像した。

 俺の母さんがまだ生きていて、父さんも何も起こさずに平和な日々を送っていたとしたら。

 ……当たり前の男子高校生でいられたら……。


「……楓太くん?」

「え……」


 気付けば、涙。

 頬を伝っていた。ごまかすように袖で拭うが、何故か止まらない。

 俺は。  

 俺は、悲しいと思っているのか。

 母さんが居ないことを、父さんとも離れ離れになったことを、今更。

 

「は、はは、すみません、なんか俺……ちょっと変で……」


 ……いや、悲しかったんだ。

 それと、心のどこかで愛花、アキラ、叶を……羨ましいと思っていたのかもしれない。

 母親がいて。

 たまに遊んでくれる父親がいて。喧嘩ができる姉妹がいて、それを羨ましいと。


 人によってはそれを劣等感や妬みとも言うかもしれない。だが、俺が彼女たちにそんな感情は向けない──だから、やっぱり羨ましいと思ってしまったんだ。


「……大丈夫大丈夫」

「ぁ、ま、真奈美さん……?」


 真奈美さんの胸の中に抱き寄せられる。

 俺は力なく引き寄せられることしかできない、抵抗するなんてこともなく。

 頭を撫でられた。そんなことは初めてだったから、そこで涙腺のダムが決壊したかのように、ボロボロと涙が溢れてしまった。


「……あの()鹿()()()


 ……真奈美さんがなにか呟いた気がしたが。

 今の俺は、ただただ真奈美さんの胸の中で、原因不特定多数の涙を流すことしか出来なかった。 


★★★


 泣き疲れて、俺は気絶するかのように眠っていたようだ。

 目を覚ますと、もう夕方。そろそろ皆が学校から帰ってくる頃だった。

 体も軽い、明日にはもうほとんど回復していると確信できる。


「真奈美さん、おはよう」

「ん、おはよう。……もう元気になった?」


 その言葉には、おそらく……他の意味も込められていたのだろう。


「はい。……お陰さまで」


 俺も複数の意味を込めてそう返すと「良かった」と真奈美さんも微笑んだ。

 

 そうだ、俺にはもう、皆がいる。

 寂しくなんかないんだ。


「ただいま」


 玄関から、今は聞くと安心する声が3つ。

 俺は早くその顔が見たくて、彼女たちを出迎えた。


「あっ、楓太さん、もう大丈夫なんすか?」

「楓太兄ぃ、もう元気?」

「あまり無理はするなよ、楓太」


 愛花、アキラ、叶。

 俺は……この3人の事が大好きだ。


「──あぁ、もうばっちりだ」


今回もここまで読んでいただきありがとうございます!

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