風邪。
その日はいつもと変わらず、皆を送り出してからアルバイトまでの合間に掃除や洗濯をして、夕方まで働き、帰宅して夕食の準備をしながら皆の帰りを待っていた。
次第に帰ってくる皆に「おかえり」と呼びかけ、「ただいま」と返してくれる。本当に変わらない日々の、その途中。
「叶は今日も遅いのか?」
「そうっすね。もうすぐ内申点とかに響く試験だし、気合はいってるんじゃないすかね」
「そうだよな……叶はもう本当にそろそろ受験だもんな」
八月朔日家三女、叶はここのところ勉強に励んでいる。
たまに様子を見てみてると、普段の活発な姿と違い、真面目な表情で問題を解いていく叶。
それを見たら、俺も出来る限りの応援をしたくなるものだ、だから──
「しかし楓太さん、器用な事しますね」
「慣れれば案外やれるぞ。でも丁寧にしたいから、ちょっと時間はかかるけど」
手編みのマフラーを作っていた。これから更に寒くなるし、何かプレゼントができればと思い実行に移した。
叶だけじゃなく全員にだけど、叶には応援の意も込めて。
「お、返ってきたか」
誰かが帰ってくる事を意味する、戸が開く音が好きだ。
さぁ叶、今日は叶の好きなロールキャベツだ──そう早く伝えたかったのだけど。
「ただいま〜……」
少し疲れた様子で帰ってきた。いつもの元気な叶じゃなくてその違和感にはすぐに気付いた。どこか顔が赤いような……。
「おかえり……なんか元気ないな。お腹すいたか?」
「んーん……むしろ、ちょっと食欲ないかも」
「ん……?」
3姉妹の中で誰よりも食べる叶がそんな事を言うのは本当に珍しかった。
そこまできて、俺はまさかと叶のおでこに手のひらをあてる。
「あ……ちょっと熱ありそうだな。測ってみな」
体温計を渡し数秒、予想は当たってしまったようでそこには38.1の数字が浮かび上がっていた。
「疲れてるところにやられたかな? 今日は軽くシャワーだけ浴びて、早く寝ような」
「うん……」
「……今日は勉強も無しだぞ? 早く治してから取り組んだほうがいいからな?」
そう釘を差しておかないと、部屋で隠れて勉強しそうだからな。
叶も渋々と言った様子で承諾し、その日はなるべく体調回復に備えた。
★★★
しかし、風邪はそんなに簡単には治らず翌日も持ち越した。朝体温を測るともう少しあがっていて、学校に行かせるわけにはいかなかった。
「今日は大人しく寝てるんだぞ? 俺も家にいるから、何かあったら呼ぶんだぞ」
「はぁ〜い……」
冷えピタシートをおでこに貼り、ベッドで横になる叶。
さて、これから出来る事と言えば……。
「氷枕と、あぁそうだ、食べやすいもの……」
スポーツ系飲料水と、昼頃にいまの叶でも食べられやすそうなもの。
暖かい卵雑炊を作ることにしよう、俺も幼い頃に父さんに作ってもらったものだ。
作り方も簡単で、風邪の症状が辛いときでも食べやすい。風を引いたときには雑炊とか、おかゆとイメージがされるが、たしかにそれはあっているのかもしれない。
生兵法で行くよりも、オススメされているものを素直に試してみることは大事だ。
時計の針が綺麗に真上に揃う頃、俺は叶の部屋へ雑炊を持っていく。
まだ起き上がることも辛そうだ、栄養をとって元気になればいいんだが。
「わぁ、いい匂い……楓太兄ぃはすごいね、何でも作れるんだね」
「ありがとう。食べられそうか?」
少し冷ましてあるから、ちょうどいい食べやすさだと思うがどうだろうか。
「食べさせて〜」
「はいはい。ほら、口開けな」
「あー……」
ん、とスプーンを咥える。少し噛み、飲み込んでから「おいしい」と笑った。
「良かった。全部行けそうか?」
「うん、食べられるよー」
そう言って、少し多かったかな、と思っていた量を叶はしっかりと胃に収めた。とりあえず何も食べられない、なんてことはないようで一安心だ。
少し生姜を刻んで入れていたのが効いているのか、程よく発汗も見える。
「結構汗かいちゃった」
「汗で冷えても悪いからな。身体、ふけるか?」
「んー……」
気怠げに、額の汗を拭う。流れる汗が首筋を伝い衣服に染み込む。早く身体を拭いて少しでもさっぱりしたいはずだろう。
「うん……お願い」
「よし、じゃあ……え、お願い?」
俺はただタオルを持ってくるだけのつもりだったのだが……叶はそうではなかったようだ。
「背中とか拭けないから……楓太兄ぃが拭いてよ」
次回拭くのは背中だけで済むのでしょうか。
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