喧嘩する理由なんてそんなもん。
本当に叶の出番が少ない。
次回久しぶりに登場して、次々回は個人回です。
「お、おいおいお前ら! なんで喧嘩する必要があるんだよ!」
「止めないでください楓太さん。売られた喧嘩は買うんす」
二人は俺の静止の声を聞かず、喧嘩をするために空き地へと歩いていく。
休日の朝から喧嘩を始めようとする二人を止めない奴がどこにいる。
「私達は昔からこうだった。口論でどうにも決着がつかないのなら、もう拳しかないと」
その説明を受けている間に、俺たちは空き地へと着いてしまった。
「アタシとしても、別に喧嘩する必要はねぇとは思ってんだけどよ」
「なんだ? 怖いのか?」
「やってやるよテメェ、ぜってー泣かす」
一触即発の空気。準備体操のように足踏みをしたり指を鳴らしたり。
もうここまで来てしまったら、この姉妹は止まらないだろう。お互いの意思を通して、決着をつけなければ……。
「勝ったほうが楓太さんと寝るってことでいいな?」
「ん?」
「そうか、助かる。それなら今夜は私とだな、楓太」
「え?」
なに、そういう話? いやどういう話だ。
待て、そもそもこの二人はどうして喧嘩をしようと思ったんだ。愛花はアキラに対して何を想ったんだ……?
「ぅっしッ!!」
「ぬぅぅンッ!!」
両者の拳が風を切るどころか斬っていた。その拳は互いの拳をかすめて、吸い取られていくように柔肌の頬へ。
発砲のような破裂音。愛花もアキラも、お互いの強さを理解していて、その一撃の重さを知っているはずなのに、ノーガードの果てのクロスカウンター。
だがどちらも一歩も譲らない、その足はビタリとも動かない。引くことを知らず、次の一手を繰り出す。
「うらッ!!」
伸び切った愛花の腕を肩で担ぎ背負投げ──違う、地面に叩きつけるのではない。あれは文字通り背負投げだ。アキラに放り投げられた愛花は空中でバランスを取り戻しなんとか着地する。
「っちッ!!」
着地と同時に愛花は地を蹴りすぐさま反撃。
アキラの腕を掴み──逃げられないためだ──確実に痛恨の一撃。頬へ沈んだ拳はそのまま離れることなく、地面へ向かって叩き落としていく。地面に叩きつけられた頭は当然無事なわけはない。普通ならこれで終わりだ。
しかしアキラがこれで終わるわけもない。
まるでブレイクダンスのように下半身を振り回し強引に愛花を引き剥がす。あの攻撃の直後にあれだけ激しく動けるのは流石といったところか。
どちらも人間離れしている。忘れていたわけではないが、やはりこの二人は人類最強を目指す峰十郎さんの子どもなのだ。
いや感心している場合ではない。
「オラァっ!!」
「かぁッッ!!」
動悸が激しくなる。
激しくぶつかり合う二人を見ていると、思い出してしまう。
アキラなら風雷との事を。
愛花なら羅生門との事を。
これは姉妹喧嘩で、お互い共に、終了の見極めもわかっているのだろう。これが初めてではない事は、俺も理解していた。だけど、そうだからと言っても、俺は。
血を流す二人なんか、見たくなかった。
「──やめろってお前ら! 頼むからもうやめろぉっ!!」
衝動的に叫んでいた。
少し酸素が足りず、頭がくらくらとしたくらいに。
そんな俺の声に二人も手を止めてくれた。
「ふ、楓太さん」
「頼む……やめよう、やらなくてもいい喧嘩は。しなくても良い痛い思いは」
俺は俺の知らず知らずのうちに、傷付く二人の姿がトラウマになっていたのかもしれない。
だからこんなにも胸が張り裂けそうで、辛くなってしまったのか。
「……すまない、私も少し短気だった」
落ち着きを取り戻した様子の愛花は、アキラを見てそう言った。アキラもそう言われてしまっては引くしか無く。
「……アタシも悪かったよ。……楓太さんも……ごめんなさい」
頬をかきながら申し訳無さそうに愛花と俺に謝る。
俺としては二人が、もちろん叶も含めて三姉妹が仲良くしてくれれば、それで良い。
「良いよ。……二人ともお互いの事を考えて、どうすればいいかを話し合えば、今日みたいなぶつかり合いもないはずだよ」
それを聞くと愛花とアキラと納得してくれたようで、帰り道の途中に何かを話し合っていた。
「よし、なるほど……そういうことにするか」
「あぁ。それならアキラも私も不満はないな」
そうして玄関の前に着いた頃、二人の中で結論が出たようだ。そういえば結局二人はどうして喧嘩することになったんだっけ。まぁそれはそれとして、愛花とアキラが仲直りできたなら、それで良い。
「楓太、今夜からは3人で寝るぞ」
「……ゑ?」
前回で50話目を迎えました、ここまで書こうと思えたのはひとえに皆様のおかげです。
そこで自分が知りたいだけですが、皆さんは3姉妹の子達ならどの子がお気に入りですか?
もしよろしければ教えていただけると幸いです。
そして、今回もここまで読んでいただきありがとうございます!




