勘違いだよな。
時刻は22時。
アキラが俺が使わせてもらっている寝室にやって来る──少し前。
「なぜアキラが?」
「別にいーだろ、アタシでもよぉ」
「いや構いはしないが、お前。万が一の時は死んでも守れよ」
「万が一って、こんな家の中で襲われるって楓太さんはどっかのヤクザの親玉か何かかよ。歳的に息子かもだけど」
物騒な会話だった。
……確かにアキラの言う通り、わざわざ俺を狙いにこの家に侵入してくる奴なんて居ないと思う。結局、この状況を作り出したのは、過度に俺の身を案ずる愛花なのだけれど。
絶対に一人にはしない──そんな決意が滲み出していて断るに断りきれなかった俺が一番悪いのかもしれない。
俺が、あんな奴らに捕まらないくらい強ければ──
「楓太さん……ほら、早く。寝ましょ」
「あ、あぁ……」
昼間に襲ってきていた眠気も、今では鳴りを潜めてしまう。一種の興奮状態なのかもしれない。
「お、おやすみ」
俺は先手を打って、もうなにかが起きる前に眠ってしまうことにした。いざ目を閉じてしまえば、頭が枕に沈んでいくような感覚がやってくる。
やはり身体は、もう限界なのだ。睡眠をとれと、訴えるように意識が遠のいて──
「んんっ……」
「うん!?」
昨晩の、愛花が左手を握ってきたどころではない感覚。
これは手どころか、腕──アキラは俺の左手に抱きついていた。
「なっ、なにして……!」
「あっ、アタシは抱きまくらがないと眠れないんすよ……!」
そう言われて俺は思い出す。
確かに今まで何度も寝起きの悪いアキラを起こしに行ったとき、アキラはサメやらイカやらのぬいぐるみを抱いていた。だからそれは事実ではあるのだが……!
「じゃあ今からでも何か他のぬいぐるみを……」
「嫌っす。もうアタシは寝ると決めたら他の事はしたくないんです。だから取りにもいきません……」
そう言ってさらにぎゅっと抱きつく。
これはまずい、本当にまずい。
もしかするとこれは、風雷に襲われたときよりも、羅生門に襲われたときよりもまずいかもしれない。
それに気付いてしまったから。
(いや、もしかしなくても、この感触って……)
想像してはいけないとわかっていても、俺の男子高校生の脳内にはそのふくらみが……アキラの胸であることをはっきりと認識させた。
さながらエマージェンシー、危険信号のように。
(うわぁ、まずい。どうしよう本当に……)
問題のアキラの方を見る。
いつか見た、鬼神の如き戦いを見せた時とはまるで別人の可愛らしい寝顔。
最強の番長であることを忘れてしまいそうになる。
それでもやはり心のなかでいつだって思うのは。
(本当、こうやって見ると……アキラは普通の女の子だ)
可愛いものが大好きなただの美少女だ。
そんな子とこうやって眠れるのは、愛花もだけれど、ものすごく稀有なことだろう。
それにアキラなんて、泣いてしまうほど一緒に寝たいと思ってくれて……あれ?
(じゃあ、アキラ……俺が一緒に寝てくれないと思ったから泣いてたのか?)
言い換えれば、俺と寝たかった……ということになるのだろうか。いや、それは自意識過剰かもしれない。大体、もしも本当にそうだったとしたら。
(アキラがまるで、俺の事を好きみたいじゃないか)
とんだ思い上がりだ。
確かに、こんな状況なら勘違いしそうになるが……俺はアキラが好きになってくれるような事は何もしていない。理由もないのに惚れるわけがない。
(ただの自意識過剰だな……)
やっぱり、あの涙は贔屓していたみたいで嫌だったからだろう。大丈夫だアキラ、俺はお前達みんなに感謝しているんだ。だから俺は、誰か一人を贔屓したり拒んだりなんか、しないからな。
そんな風に考えていれば、気づけば俺の意識は夢の世界へと。久しぶりに睡眠取った俺の身体。翌日には元気いっぱいに朝を迎えた……と言えれば良かったのだが。
問題はその朝だった。
そう、忘れるな。
八月朔日アキラは──朝に弱い事を。
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