平等に。
本日は17時にもう一話投稿します。
「楓太さん! 今夜はアタシと、ね、寝ましょう!」
「へ?」
帰ってきて早々に、聞く人によっては早とちりをしかねないアキラの言葉だった。
昨日眠れなかったから、頭がうまく回らないがアキラがとんでもない事を言っていることだけよくわかった。
「……あのね、アキラ」
なんだか俺は本当にアキラの父親──峰十郎さんがいるのだけれど──のような気持ちで、話し出す。
「は、はい」
「これは愛花にも言わないといけないと思っているんだけどね……」
俺が正座で洗濯物を畳んでいたからか、アキラも自然と俺の話を正座で聞いてくれる。
ソレも含めて、まるで本当に父親の話を真剣に聞く娘の姿そのものだった。
「確かに、ここの皆は俺の事を家族のように受け入れてくれてるけど……元はなんの関係もない男なんだ。本当に兄妹なら一緒に寝たり風呂も……いやまぁそれも如何なものかと思うけど……とにかく、当たり前のように一緒に寝たりするのは、ちょっと違うと思うんだ」
今に始まったことではないが、ここ最近皆との距離感がかなり近い気がしていた。
それが悪いと言いたいわけじゃない。俺自身も、八月朔日三姉妹達との関係は様々な体験を通して深まっていると自負している。
でもやっぱり、節度ある関係というものがある。
俺の理性を保つためにも。
「……そう、すか」
アキラは力の籠もってない声で反応した。
項垂れて正座をしている姿は叱られた後の女子高生だった。
どうしたって、俺達は男と女。今は俺だって平常心で居ていられるけど、この先俺がどんな行動を起こすかはその時の俺にしかわからない。
……そもそも、この先絶対にこの子達に手を出さないと強く断言出来ない自分自身に嫌気が差すのだ。
完全に俺の身の上話だが、理由はわからないが俺は高校生時代、女子との触れ合いは多くなかった。今となってはどうでもいいけれど、何故か避けられていた。
友達も少なくて……でもたった一人だけ居た。
男子女子分け隔てなく接する、クラスに一人はいる人気者。彼女は今頃なにをしているのだろうか。
いや、今言いたかったのはそういう事ではない、脱線しすぎた。
俺は──女の子に対しての適切な距離感が分かっていなかった。だが今の俺達は、あまりにも近すぎる。それだけは分かる。
「だから今後は……えっ」
俺の言葉は塞き止められた。目の前でポタポタと手の甲に雫を落とすアキラをみて、否応もなく。
俺は動揺した。以前見た愛花の泣き顔は、それどころでは無かったから驚きもしなかったが、今回はそれはもう動揺した。
何より、アキラが泣く姿が衝撃的でなんと声をかけるべきなのかわからなかった。そもそもどうして涙を流しているのか。
「どっ、どどどうした!? お、おなかいたいのか!?」
「いや……楓太さんは、私とは寝てくれないんだなって……」
「うぇっ!? い、いやだから、それは……」
「愛花とは寝たのに……」
「うっ……!」
それを突かれると痛い。本当に俺が話した事を感じていたのなら、昨日のうちに愛花にそれを伝えて一緒に寝る事を回避する、ということもできたはずだ。
そうしなかった、となると……傍から見ればなんだか「愛花とは良い」と言っているようでいやらしい。
もしかしたらアキラもそう感じ取ったのかもしれない。
「楓太さんはアタシより愛花の方が大事なんすね……」
「いや! そんな俺は贔屓なんかしないぞ!? アキラも愛花も叶も、3人ともすごく大切な存在で──」
「じゃあアタシとも寝てくださいよ」
「うぐっ!」
ここでそれを拒否すれば、本当に贔屓しているようだ。
そう思われてしまう事だけは避けたい……仕方ない、こんな事、今回までだ……。
「わ、わかったよ。今夜は一緒に寝よう」
それを聞くとアキラは──今の一瞬までの泣き顔が、嘘のようにケロッとして「わかりました!」と応えた。
「……え、切り替え早すぎない?」
「そんなこと無いすよ。内心、まだ泣いてる」
本当かな……とは思いつつ、そこで疑うのも悪いかと、俺は追求はしなかった。したところで、今夜アキラと寝ることに変わりはなさそうだったから。
「……じゃあ、今夜。部屋、行きますね」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ブックマークも1800件を超え、次なる目標にしていた2000件が見えてきました! この勢いを逃さず更新を続けていきます!




