泣かなくていい。
次回で愛花編が終わり、ようやくほのぼのが帰ってきます。
悲鳴。
それは一つずつ消えていく。
恐怖が去ったからでない。
恐怖の正体に、黙らされているのだ。
「たっ、たすけっ、ぎゃっ!!」
「やめてくれっ、俺たちはなにもぅっっ!?」
「お、おいお前ら! 扉を外から閉めるな! まだ俺たちがいるんだぞ!」
「うるせぇっ! お前らが囮になってオレたちの逃げる時間を稼げよ……!」
たった一人の少女を前に、背を向けて逃げ惑う。
誰一人として向かうものはいない。それが正しい、一匹の蟻では熊は殺せない。
もっとも、この差は群れたところでどうにかなるものでもないのだが。
「ひっ、ひぃぃいっ!!」
また一人の男が捕まった。胸ぐらを掴まれて、壁に押し付けられる。その顔の前で拳を構えると、泣き叫びながら懇願した。
「ゆっ、許してくれっぇええ!! 俺たちは何もしてないだろぉぉぉ!?」
その言葉はまるで愛花の耳には届かない。
愛花にとっては、羅生門に……この場にいて、花谷の仲間だったものは全てが粛清対象だった。
「死ね」
その顔面に殺人級の本気のパンチ。背後のコンクリートの壁にひびが入る。それを食らった男の手足がピンと張り、失禁しながら崩れ落ちる。
「殺してやるぞお前たち……」
その目は本気だった。
本気で──愛花は羅生門の構成員を皆殺しにするつもりだった。理性のストッパーがぶっ千切れ、相手が死んでもやむ無しと、その拳を真っ赤に染め上げていく。
「死ね……」
一人一人。
「死ね……!」
恐怖を植え付けて。
「死ねッ!!」
嬲り倒していく。
気づけば、立っているものは愛花を除いて誰もいなくなっていた。
「……」
しかし愛花の胸の内は晴れ晴れとはしない。
本当に殺したい相手がいるからだ。
愛花はその男の元へと歩を進める。
その男──花谷にとっては、死へのカウントダウンようだった。
「お前が……おまえのせいで楓太が……」
木刀を拾い上げ、気絶している花谷の眉間に構える。
そこを中心に振り上げ……自身の持つ力をすべて込めて振り下ろした。
「死ねぇぇぇぇぇッ!!!」
「──愛花ァッ!!」
愛花の殺人を直前で止めたのは、最後の力を振り絞り飛びついた楓太だった。愛花を巻き込み倒れ、そこで愛花もようやく正気を取り戻した。
「ふ、楓太……」
「だめだ愛花……それだけはダメだ……」
愛花の胸の中で、息も絶え絶えな楓太はなんとか言葉を続ける。
「そんな奴は、もう放っておけ……俺なら大丈夫だから……」
「で、でも、楓太……血が……」
今もなお止まらない出血。一歩ずつ進む死に本人よりも背筋が凍りつく愛花は、下唇を震わせながら懺悔のように言葉を吐き出す。
「ごめっ、ごめんなさい……私っ、が、っう、ぅう……! 私のせいで、楓太がこんな目に……!」
「……言ったろ、愛花。俺なら大丈夫だから……それに」
愛花の頬に手を添えて、親指で目元を拭う。
ボロボロと溢れる、ダイヤモンドのような透明度の涙を。
「愛花のせいなんかじゃない……だから泣かなくていい」
「ぅ、うぅぅぅ……!」
涙でぐしゃぐしゃの顔。
だがいつまでも泣いている場合ではない。今、真っ先にすべき事。
涙を払い、情けない自分を切り替え、楓太を担ぎ愛花は立ち上がった。
「……ありがとう、楓太。だが死ぬなよ、絶対に……そしてこれからは……私が楓太を護る!!」
地を蹴り飛ぶように走り出す。
幸いだったのは、以前楓太が骨折した際に向かった病院が近いこと。愛花の全力疾走ならばそれほど時間はかからない。だが、問題は楓太の生命力だった。
(死なせないっ、死なせない……絶対に!)
愛花は走り続けた。
もう一生足が動かなくなってもいい──それだけの思いで、走り続けた。
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