ふざけやがって。
「なぁ花谷。本当に八月朔日のやつは来るのか?」
「えぇ。彼女からの果たし状が届いてね……」
当然ながら嘘である。
御剣には八月朔日愛花が羅生門を潰しに来る……そう伝えてある。その際、花谷は愛花が負ければ羅生門に入るという条件をつけた、と。
これに関しては御剣の力無しでは成し得ない事だ。
御剣は負けない──ソレに関しては、絶対的な信頼を寄せていた。だが万が一と言うこともあり、楓太を人質に取ったわけだが……。
信頼出来ているのか出来ていないのか、はっきりとはしないがここぞというところで手を抜かない性格からそうなってしまった。
「ほら、きたわよ」
まだ姿は見えていなかったが、花谷には殺気、揺れるオーラのようなものがはっきりと見えた。
その直後に、鉄製の扉がぶち飛んだ。くの字に曲がり、花谷のすぐそばまで一直線に。
それだけで羅生門の下っ端達は怯む。
今ついに現れたこの女が──八月朔日愛花かと。
「おい、来たぞ。誰から殺されたいんだ、とっとと名乗り出ろッ!!」
「んっふっふっふ……喧嘩っ早くのねぇ、あなた」
百人以上もの相手にそれだけの啖呵がきれるのは流石と花谷は内申愛花を讃えた。絶対にほしいと、さらに欲が強くなりながら。
「あなたから売ってきた喧嘩でしょう? 慌てるんじゃないわよ」
(ふざけやがって……!)
手紙には「宮下楓太のことを口に出せば即刻殺す」と脅迫。その気になれば、この場を制圧することは容易いが、楓太の存在がそれを封じる。
「さぁ、約束通り喧嘩としましょうか……金田と御剣を相手して、その後の私に勝てれば……羅生門はあなたに上げるわ。そして、あなたが負ければ……羅生門に、私の傘下に入ってもらうわよ」
「好きにしろ、おまえたちはどの道潰す」
「ふふふ……さぁ金田。まずはあなたが相手しなさい」
「ったく、この俺が先陣かよ。終わっちまっても知らねーぞ」
金田は愛花の前へ。
はじまりのゴングなどない。喧嘩の始まりは、どちらかが手を出してからがスタート。
「おいおい、喧嘩は素手だろ。その木刀、置けや」
「……」
従わなければ、楓太に何か危険が迫るかもしれない──そう思い、愛花は素直に木刀を地面に置きかけた、その時。
「ははっ、馬鹿がっ!!」
金田が顔面めがけて蹴りを入れる。
卑怯も何も、喧嘩はすでに始まっていて、文句を言わせる気もないし、なんならこれで決着──
「ぶぎゃらっ!?」
「──噛ませ犬が」
響いたのは金田の悲鳴。
顔面の鼻は砕かれ、大量の鼻血にまみれながら悶え苦しんでいた。
「どっ、胴回し回転蹴り……」
動作のスタートから考えると、金田が何かを仕掛けてくると分かっていないと不可能な反応速度だったが、愛花ならば瞬発的にもやれるのだろう。
「とんだ茶番だ。あの程度しかいないのなら、もう結果は見えているぞ」
「いや待て待て……俺は感動しているぞ、八月朔日」
首をポキポキと鳴らしながら、金田を跨ぎ愛花の前へ。
(……こいつ、強いな)
見た目だけじゃない、猛者の風格。
御剣恭弥から漂うものは、ハリボテのオーラではない。
「さぁ、俺と喧嘩をしよう、八月朔日」
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