死んでもここから出てやる。
次回は、楓太が小田切と対面している間の出来事です。
愛花と花谷達が出会っている頃に起きていた、裏での騒動が今回です。
「言っとくが、最悪テメェは死んだってこっちには問題はねぇんだ、舐めた口聞かなきゃ死ななかったって後悔すんじゃねぇぞ」
「いいからとっとと来いよ、三下」
左手の指に貫通した釘を、激痛を覚悟して引き抜く。
「っぐぅっ、ぁぁぁっ……!」
かろうじて動かせることに少しばかり安堵するが、先程小田切が言った通り、適切な処置を行わずに放置すればどうなるかなど想像に容易い。
(やばい、人差し指の感覚……)
動かせはするが、得も言われぬ違和感。
今なら熱した鉄板に指を乗せても、何も感じないのかもしれない。
「いっちょ前にファイティングポーズかよ、かっこいいっねぇっ!!」
「うがっ……!」
小田切の細い腕から繰り出されるパンチは速い。かわす間もなく楓太の頬に入り込んでいた。
「オラッ!」
よろめいている楓太に空かさず蹴り。しかし狙ったのは腹でも顔でも金的でもなく。
負傷した左手、つま先でまるで傷跡をえぐるように蹴り上げた。
その痛みは凄まじい電流が体に走ったかのようだった。
「くぁぁぁあ……!」
心臓が左手に宿ったのかと思うほどに血管が蠢く。吐き気さえ催してきて、楓太はたまらずに膝をついてしまった。
「んだよ、イキがってたわりには根性ねぇなぁ。なぁ? 立ってみろよ」
小田切は楓太を見下ろす。
この状況から自分が負ける姿がまるで想像できない。小田切の頭の中で、楓太が地に伏せる光景しか流れていない。
「かははは……今すぐ土下座でもして泣いて詫びれば許してやらねぇこともないぞ?」
「……うるせぇん、だよ」
「……」
こみ上げる酸味を押し殺し、立ち上がる。
目の前の敵を見据えて。
心が折れていないことを示す。
「うおぉぁあああっ!!」
右手を握りしめ、目一杯の力を込めて小田切に放つ。
しかしその拳が小田切に届くことはなかった。
「えっ?」
「お前さぁ、もしかして自分は殺されはしないだろうとか……思ってなかったか?」
下腹部に痛み、熱。
脇腹に、何かが突き刺さっている。楓太は見た、見てしまった。そうしなければまだ意識を強く保てていたかもしれないのに。
「ぅぁぁあっ、ぐっぁぁ……!」
「いいね、その死ぬかもって顔」
小田切の隠し持っていた小型のナイフ。それが楓太の脇腹に深々と刺さり、鮮血を浴びていた。
蓋の役割も果たしていたが、遠慮なく引き抜き血が流れ出す。
腹を抑えるが、それでも止まることのない血。楓太は次第に自身の末路について考え出す。このまま、こんなところで、死ぬのかと。
「嫌だ……」
「お? お!? 命乞いしちゃうか!? いいねぇ、聞かせてくれよ!」
確かに死ぬことは絶対に拒否したかった。
こんなにつまらない死に方で、自分の一度きりの人生を終わらせたくはないと。
だが助かるためには? 今ここから生きて脱出するためには? 小田切の言うとおり泣いて土下座をして命乞いをすれば助けてくれるかもしれない。だがその確証も保証もない。
なら、どうするべきか。
そんな物は決まっていた。
「──テメェになにも返せねぇまま死ぬのだけは嫌だっ!!」
「お、うおっ!?」
予想外のタックルに、腰から倒れる小田切。楓太はその空きを見逃さなかった。
小田切の上に馬乗りに、マウントポジション。
「ぐぅぅぅっ!!」
「なぁっ、て、め……!」
小田切の首に両手をあわせる。
体重を乗せ、頭に届くはずの酸素を潰す。
「てんめっ、はなっ、はなせっ、ぅぐ……!」
「絶対に離さないっっ……!」
力を緩めれば身体を返されてしまう。そうなればすべての終わり、楓太は両腕に力を込め続けるが、力めば力むほど、脇腹からの出血が激しくなる。
楓太の意識が遠のく事がさきか。
小田切の意識を飛ばす事がさきか。
どちらか。
「ぅぅぅうううっ!!」
「かっ、か、は、が……」
パタリと小田切の腕が沈む。
死んではいない、酸素が切れたことによっての失神。いずれは起き上がる。
だが、確かに楓太の勝利だった。
それまでに払った代償が、計り知れないが。
「はぁっ、はぁっ、はぁ……まな、か……」
とにかく、ここを出て病院に行かねばならない。
重い鉄製の扉を最後の力を振り絞って押し開けて……楓太がその先で見た光景は──
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