ギャップがえぐいよねって話。
バーベキュー、本格開始。
マグロが焼けるまで残り2時間、水遊びや他の肉や野菜を食べて待つ。
「んまーい! やっぱりバーベキューっていいよね!」
「炭で焼くのってやっぱり効果あんのかな。愛花なんか知ってるか?」
「肉の表面が固くなりすぎないとか、香りがいいとか。まぁ何かしらはあるんだろう」
水着少女たちが美味しそうに頬張っている。それをみると汗水流して焼くのも悪くない。
そんな俺を見て気を使ってくれたのか、愛花がこんがりと焼けた肉や、焦げ目が絶妙な野菜がタレに浸かった紙皿を手渡しくれた。
「楓太、一度変わろう。ずっとやってもらってばかりも悪いからな」
「ありがとうな、愛花」
「いいんだ、楓太もプールにはいったらどうだ? 結構気持ちいいぞ」
入れば服も下着もびしゃびしゃだろうが、まぁこの際別にいいか。確かに今このコンディションで入れば最高に気持ちが良さそうだ。
「あぁ、じゃあそうさせてもらおうかな……あれ、ははっ、愛花」
「ん? どうした」
大したことではないのだが、愛花の水着のちょうどフリルのところに小さなバッタがとまっていた。肌に触れていないから気づいていないのだろう。
「肩のところ、バッタとまってる」
「へ?」
すっと視線をバッタにやった。気のせいでしかないが、バッタも「やぁ」と言いたげに軽く手を上げている。
すぐに手で追い払うだろうと思っていたのだが──
「ひっ──」
「え?」
「あっ、やばっ、おい愛花……」
何かに気付いたアキラが愛花を呼びかけるが、それよりも早く、そしてアキラの声をかき消すような叫び声が俺の耳を貫いた。
「──ひぎゃぁぁぁあっっ!?」
「えっ、どぅふっ!?」
胸にタックル──いや抱きつかれたのだが、凄まじい衝撃に一瞬息が止まった。右腕もギリギリのところで犠牲にならずに済んだが、抱きつかれた際抑えられずに背中から倒れてしまい更に呼吸が困難になった。
しかしそんな俺よりもピンチに陥っている子が目の前にいた。
「やだやだやだやだ本当にむりっ! 取ってっ、早く取って楓太ぁっ!」
「ちょっ、ま……」
どういう事だ。
今目の前でただのバッタに、これほど怯えて涙目になっているのが……本当に愛花なのか?
声も高いし、いつもの喋り方もどこへやら。
あと……胸が……。
(いかん、ダブルいかん!)
こっちまでパニックになる!
とにかく愛花の肩にいるバッタを取らなければ、となんとか手を伸ばそうとしたが、それよりも先にアキラがバッタを取っ払った。
「よォ愛花……とってやったぞ」
「……」
むくりと俺から離れて無言の愛花。
そして何事もなかったかのような顔で。
「助かった。感謝するぞ、アキラ」
「いやいやいやいや無理があるぞ愛花!」
思わず全力でツッコんでしまった。愛花も無理があることを自覚していたのか「ふぐぅっ」と呻いている。
それを面白がったのか、アキラは愛花を煽りだす。
「おやおや愛花さん、楓太さんに恥ずかしいところバレちゃったねぇ」
「おい……アキラ……」
「おお怖い怖い。くふふっ、バレちゃったねぇ、本当は無理してかっこいい自分を演じている事がねぇ。本当は虫も怖いし、甘い物大好きなぁぁぁぁアッっ!?」
いったいどこから持ち出したのか、全力を込めて木刀を振り下ろす愛花と、それを既のところで真剣白刃取りで防ぐアキラ。
「黙れアキラっ、それ以上は頭蓋骨叩き割ってやるっ!」
「煽りに対して反逆がオーバーすぎるだろうが!」
突然始まる姉妹喧嘩、だがこれは俺にはとてもじゃないが止められない……! 頼れるのは今、一人だけだ。
叶! なんとか二人を止めてくれ!
「玉ねぎ旨っ」
「あれっ!? 食事に夢中!?」
そうしている間にも二人はさらにヒートアップしていく。
まずい、このままじゃ楽しい思い出が……!
「ま、まぁとにかく落ち着いてくれ二人共! ほらっ、峰十郎さんの手紙にも書いてたろ? 仲良く! な!」
なんとか俺の話に耳を傾けてくれたらしく、アキラが先に折れた。
「まぁ、そう、すね。……悪かったよ、愛花」
「……いや、私も。すまない……だが、楓太」
丸く収まったと思ったが、愛花は俺に一つだけお願いをしてきた。
「……さっきのは、忘れてくれるか?」
「……うん。そうするよ」
とてもじゃないが忘れられそうにはないけれど、建前でも俺はそう言った。
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