父親。
木刀を手に握る愛花。
これにより彼女の本領が発揮されるわけだが、峰十郎さんはそれにどう対応するのか。
すると峰十郎さんは、指を一本立たせ、それを胸の前に構える。
もしかしなくても、あれは。まさか。
「ふふ……さぁ、遠慮するな。思い切りかかってこい」
「無論だ」
一歩大きく踏み出し、手に馴染んでいるであろう相棒を振り翳す。
その切っ先を、峰十郎さんは受け止めた……人差し指だけで。微動だにせず、まるでその指が木刀のように堂々と。
「どうした? こんなものか?」
「まだまださ……!」
受け止められた指を支えに木刀を押し付けて、反動を生かして宙に飛びあがる。空中でぐるりと回り、その勢いを利用して、かかと落としを食らわせる。
脳天に直撃し、これにはさすがに峰十郎さんとて──
「くくく……素晴らしいぞ、愛花」
「なっ……!? ど、どうなってんの、あの人……」
どうしてあんなものを食らって、あの程度の反応で済むのか理解ができなかった。峰十郎さんでなければ、最低でも意識を失ってもおかしくはない。
「これなら熊だって殺せるだろう」
「教えを守っていただけだ。……そうであれと私達を育てたのは父さんだろう」
「親想いの娘で感動するぜ、まったく……」
本当に嬉しそうにくつくつと笑う。異様な光景ではあるが、これがこの家族の団欒なのだろう。
アキラと叶も峰十郎さんを見て目を輝かせている。
憧れのプロ野球選手に釘付けの少年のようだった。
愛花も同様で、全力を出しても退屈しない相手と戦えることが嬉しそうだった。
「なぁ……峰十郎さんって、何者なんだ?」
俺は今更ながらアキラにそんな事を聞いた。
強く、世界を旅して回り、各国の猛獣と戦う漢。それからイメージするものなんて。
「父さんは人類最強になるのが夢なんすよ」
予想通りだった。
「そしてアタシ達は、それらを阻止するために育てられてます」
「……どうして?」
「壁がないことは、辛い事らしいすよ、父さん曰くね……」
対立する壁がないから、それを自ら作り上げる。
あとから産まれてくるものたちも全てライバルということか。
激闘を繰り広げる愛花たちを見守りながら、俺はアキラと叶に質問をする。
「二人は、峰十郎さんのこと好きか?」
「そりゃあ好きすよ。おっかないけど」
「私も! いつかお父さんを超えるようになりたいんだぁ」
父親の事をはっきりと好きと言えるのは、なかなか難しいことだろう。3人とも、そういうところに敏感な歳だからな。
「……父さん、か」
お父さんに遊んでもらっている愛花を見て、俺の口からそんな言葉が漏れ風に消えていった。
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