えっちなのはいけないと思う。
「というわけで、これより八月朔日家裁判を始めます」
「ちょっとまってくれアキラ! 誤解なんだって!」
長テーブルの両端にアキラと叶が弁護士と検事よろしく対面し、その間に愛花が裁判官のように陣取る。
そして俺は、被告人だ。
「誤解? 風呂場であんなふうに……その……くっついて誤解もにもあったもんじゃない!」
「だ、だからあれは事故で……そうだよな! 叶?」
「う、うん、そうだね……ぽっ」
「叶!?」
何を思い出したのかわざとらしく頬に手を当て、そんな擬音を口に出す。やめてくれ、いまのでアキラの顔がさらに凄みを増したから。
「被告人、許可のない発言は慎むように」
「なんでそんなにノリノリなんだ……」
どこから用意したのか、用途不明の木槌をカンカンと鳴らす。意外とこういうことに参加するタイプなんだな、愛花……。
「アキラ、あれは本当に事故なんだ。俺足を滑らせたから……」
「そうだよアキ姉ぇ! 私が楓太兄ぃにちょっかい出したから、それで……」
「ちょっかいだぁ?」
アキラはギラリと視線を飛ばし、叶に向かって指を突きつけた。
「怪我人にちょっかいを出すな!」
妙に正論。それはたしかにそうかもしれないが……。
今回に置いては、問題はそれではなかったような。
「そ、それはごめんなさい……でもアキ姉ぇ、それなら、そう言ってくれれば私もわかるよ?」
「あ?」
「アキ姉ぇ、結局何に怒ってるのかなって」
「な、何にって……」
「それは私も気になったな」
裁判官であるはずの愛花も参戦する。
しかし、確かにそれなら俺も気になる。よく考えれば、罪に問われているのは俺だ。……あの瞬間でアキラを怒らせるようなことをしたのか?
「い、いやその……それは……」
しどろもどろに、はっきりとしない。
いや、待て。そういえば。
「アキラ、誤解もあったもんじゃないって言ってたけど……俺と叶があんな風にくっついていたことに怒ってるのか?」
むしろそうとしか考えられない。今考えれば、アキラは俺たちを見た瞬間から態度が変わった。
「そ、そうですよ! あんなくっついて、しかも裸みたいな格好で……!」
そしてアキラは結論を出した。
今回起きたことで、言いたかったことを俺たち二人に突きつけた。
「えっちなのはいけないと思う!」
「え、えっちて……」
……もしかするとアキラは、俺が思うよりもピュアなのかもしれない。確かにあの状況は俺もなにか思うところはあったが、望んであの状況になったわけではないから、まだ良かった。
「えぇ〜、アキ姉ぇ、そんなこと考えてたのぉ?」
「結論を急ぎすぎたな。楓太たちも、そんな事を考えてあぁなったわけではないのだろう?」
「最初からそう言ってるよ」
そこで俺を含めた3人の視線がアキラに向かう。
愛花はやれやれと言った様子で、叶はニヤニヤしながら。
「ま、今回はアキ姉ぇがむっつりスケベだったという事で」
「なっ!? だ、だれがスケベだぁ!?」
最終的な結論はそんな不名誉だった。
スケベと言われ顔を真っ赤にするアキラは叶を追いかけ回している。長女の愛花がそれを見てやれやれと肩を落とす様子は、この八月朔日家の微笑ましい日常の一部だ。
やっぱりこの家は、退屈をしなくて楽しい。
俺はきゃーきゃーと騒ぐ二人を見て、心からそう思えた。
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