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居候高校生、主夫になる〜娘3人は最強番長でした〜  作者: 蓮田ユーマ
『風雷』VSアキラ編
17/134

女の子。

次回で風雷編は終わりです。

 

 風間の言う条件は、誰が聞いてもめちゃくちゃな内容だった。華子を返す気は微塵もないと面と向かって言っているようなものだ。


 だがアキラはそれを飲んだ。拒んで風間が華子を傷付ける可能性があるからだ。

 隙を見つけて、どうにか華子を救い出す方法を殴られながら考えるしかなかった。


「おまえら3姉妹は有名だからなぁ……まぁ所詮は女だ」

「いいから早くしろよゴリラが」


 その瞬間だった、アキラの体が真横に吹き飛ぶ。

 雷の巨腕から振るわれた拳が、アキラの頬をぶち抜いた。アキラの口の中には血の味が広がっていて、歯が少し欠けた事がわかった。


「アキラさんっ!!」

「騒ぐな……ほら、よくみてろ。お前のせいであいつが傷つくところを」


 ──風間の性格の悪さは、筋金入りだなとアキラは胸の奥で感じた。

 くだらないことで人をさらい、挙げ句に殺してしまっても良しとする、人としての道徳をどこかに捨ててきてしまったような男。


「おら、まだまだ行くぞぉ!!」

「ゔっ……!」


 アキラの腹に拳が沈み込む。耐えきれずに嘔吐反応が起き、少しモドしてしまった。

 そんなことにはお構いなく、雷は止まることなくアキラを嬲っていく。


「もうやめて……」

「やめねぇよ、あいつが泣いて許しを請うまでな……しかし」


 風間はアキラのタフさに少し驚いた様子を見せる。雷の猛攻を一方的に受けながらも立ち上がるその姿に。


「雷。もっと好きなようにやっていいぞ」

「オーケイ、それなら……」


 頷き、ゆっくりとアキラに近付く。

 雷はアキラの細い首を両手で掴んだ。そしてそのまま次第に力を込めていく。


「ぐっ、ぁっ、がっぁ……!」

「おぉ、やっと苦しむ顔になったなぁ!」


 首を握りしめたまま持ち上げられ、その負荷はさらにアキラへとかかる。


「ぐっ、てっ、め……」 

「いいぞいいぞ……なぁ風間ぁ!」


 雷は工場内に響くほどの声で風間を呼ぶ。何か良からぬことを閃いたようだ、その顔からは悪意が溢れていた。

 

「こうしようぜ! この女が泣いて止めてくださいって言えば許してやるけど、そっちの女は帰さねぇ。このまま首絞め続けて()()()()()()そいつだけは開放してやるってよぉ!」


 要は生きるか死ぬかを選択させられている。だがアキラにとってはそんなものは択ではなかった。答えは決まっていて、呼吸もままならないが、その言葉を吐き出す。


「死ねカス……」


 その瞬間にさらに力が込められた。

 それと同時だった、どこからともなく窓ガラスが割れる音がしたのは。

 風間達は一斉にその音の発生源に顔を向ける。

 そこにいたのは、たった一人の少年だった。

 

「──何やってんだテメェえええっ!!」


 工場内にビリビリと楓太の声が響く。それは雷との物とは比較にならない。怒りに満ち溢れた、本気の叫びだった。

 邪魔をされたことに腹を立てたのか、雷はアキラの首から手を離して、楓太の方へと歩み寄る。


「なぁ風間……こいつなんだよ?」

「宮下楓太、そいつらの同居人だそうだ。どうやってここに、俺たちに知られることなくやってこれたのかは、謎だがな……監視の奴らはなにしてやがる」

「そんなことはどうでもいい……その子達を解放しろよ」


 風間は今度こそ大声を出して笑いだしてしまった。どうしてどいつもこいつも状況というものが見えていないのだと。

 風間は上機嫌だった。圧倒的に優位に立っている状況で、相手を見下すことが大好きだからだ。


「あっはっはっは……いやぁ、今日はおもしろい馬鹿がたくさん見られて良い日だ。……なぁお前ら、一つゲームをしようぜ」


 風間は雷含む下っ端たちに提案を一つ。

 

「賭けをしようぜ、今から雷にこいつを5発殴らせる。最後まで立っていられたら全部ひっくるめて許してやろうぜ……なぁ?」


 下っ端たちはニヤニヤと楓太をみて笑う。彼らの頭の中では、数分後の光景が思い浮かんでいるようだ。


「おいっ、その人は関係ねぇだろ!」

「お前は黙ってろよな……お前もいまから人質なんだからよ」

「大丈夫だアキラ。……絶対に一緒に帰るぞ、友達もな」


 楓太の前に雷が拳を構えて立ちふさがる。

 楓太の腕と比べると、その太さの凄まじさが更に強調される。文字通り力の差が目に見えてわかる。


「さぁてまずは……一発ぅ!!」


 とても人を殴ったとは思えない音が楓太の脳内に響く。

 歯が一本飛び、鉄の味が口いっぱいに広がる。歯が砕けたからなのか、口内が切れてしまったのかもうわからない。


「ぅ、ぉ……」

「まぁ一発くらいは耐えてくれねぇとなぁ。おら立てよ、休ませねぇぞ」

「当たり前だ……おまえらも約束は守れよ」

「当然だ」


 今度は先程と反対側の歯が吹き飛ぶ。脳がゆさぶられるようだ、視界が歪み、地面に血がボタボタと落ちていく。

 口からの出血に、鼻血も加わり、楓太の顔は血に塗れていた。


「頑張るねぇ、おまえんとこの同居人は……」

「……」

「どうした、喋る気力も無くなったか?」

「黙れ」


 アキラは風間を睨みつける。

 その瞳の奥には殺意がこもっていた。


「いま、この後どうやってお前らをボコボコにしてやろうか考えてんだよ」

「……威勢がいいのは結構だが、お前が少しでも暴れる素振りを見せればこいつの首掻き切ってやるからな」


 華子の首元には変わらずナイフが突きつけられている。

 華子と楓大さえこちらの手に渡れば、どうにかできる……しかしそれも難しい。今は楓太を信じることしかできない。


「ぅおおらっっ!!」


 膝蹴りが楓太の顔面中心に炸裂する。鼻は折れ、壊れたスプリンクラーのように鼻血は飛び散る。

 かなり足に来ているのか、楓太の両膝は悲鳴を上げている。


「案外、しぶといじゃねぇの。……こんなのはどうだよ」


 そう言うと体の力を抜く。

 その動作が終わると同時に、楓太の右腕に今までに感じたことの無い衝撃。蹴られたのだ、あの棍棒のような足で。

 痛みとはまた別の、熱さが。

 その強烈な違和感を確かめるべく、楓太は己の右腕を確認した。


「う、ぅぁぁっ……!」


 あらぬ方向へと折れてしまった右腕。だらりと垂れて、動かせない。尋常ではない脂汗が滲み、痛みにこらえていた。


 ……決して、膝をつけることもなく。


「……雑魚をいじめる趣味はねぇんだけどな。そんなにあの女が大事か?」

「……そうでなきゃ、こんなところになんか来ないさ」


 息も絶え絶えな楓太は強く、雷を見据える。そしてなんのためにここに来たのかを、改めて口にした。


「女の子がひどい目にあわされてるんだ……ここで根性見せないでどうするって言うんだ」

「……女の子だぁ?」


 雷は堪えきれないと言った様子で豪快に笑い出す。それに不快感を覚えたが、楓太は黙って続きを待った、何がおかしかったのかを話し出すのを。


「お前、知らねぇのか。こいつがどんだけ喧嘩にとらわれて女捨ててるのか! 風雷だけじゃねぇ、一体どれだけの野郎どもがやられてきたのか……こんなやつは()()()なんて呼ばねぇんだよ」

「……おまえが、お前たちがアキラの何を知ってるんだ」


 ボロボロになりながら、言いたい事を言う。それが正しい事だと信じているからだ。


「アキラの好きなものがなにか知ってるか? 知らないだろ」


 フラフラと体が揺れる。まともに立っていることも難しい。それでも楓太は言葉を吐き続ける。それは、目の前の雷にか、それとも。


「アキラの本棚が何で埋め尽くされてるか知ってるか? 知らねぇだろ」


 喋るたびに、口の中が痛む。

 鼻からたれた血が口に入り永遠と血の味を飲み込み続ける。そんなにも、不格好で泥臭い姿でも、楓太はただただ語り続けた。


 八月朔日アキラについて。


「本当はっ、アキラはただの女の子だって事を! 知らねぇだろうが!!」


 叫び続けた。


「何も知らねぇお前らがッ、アキラの事を語ってんじゃねぇ!!」


「楓太さん……」


 それは届いたのだろうか。

 風雷に。

 アキラに。


「……勇ましく叫べば、状況が変わると思ってんのかよ」

「あぁ……変わるさ」

「何?」

「……()()()()()()()()()()()()


 何が? と雷が疑問に思う間もなかった。

 工場内に、悲鳴が響く。それは入り口からだった。

 下っ端たちが次々に吹き飛んでいく。さながらボウリングのピンのように、巻き込みながら。


「なっ、なんだいったいっ、ぅがっ!?」


 風間の頭部に一撃。

 なにか鉄製のもので殴られたかのような衝撃と、切れてしまったのか出血していた。

 そしてそれだけに過ぎず、腕の中にいたはずの華子まで居なくなっていた。


 その正体はすぐにわかった。楓太を囲むようにして姿を表し、華子とアキラを救出したのは。


「間に合ったね! やっぱり二手に別れて正解だったね、愛花姉ぇ!」

「あぁ。入り口が2つあって良かった」


 八月朔日3姉妹、長女と三女。

 愛花と叶だった。


「わっ!? 楓太兄ぃ、ひどい怪我……」

「さすがにこの状態で長く放置するわけにはいかない。すぐに片付けるぞ、アキラ、叶」


「ふ……ふざけるな……監視のやつらっ、なんで何も俺に伝えてこないんだ……!」

「あぁ……簡単な話だ。お前に連絡しようとする前に、叩きのめしながら、ここまで来ただけだ。そのせいで少し遅れてしまったがな」

「な、にぃ……!?」


 ──先に言ってしまうと、もうこの3姉妹が揃った時点で風雷に勝ち目など無かった。

 この場には100名の下っ端と、二人のリーダーがいるが、それでもどうにもならないほどだ。

 だが、それでは腹の虫が治まらないものがいた。


「──待て、愛花。こいつらは、アタシ()()にやらせろ。」

「……構わないが、どうしてだ?」


 その理由などわかりきっていたが、愛花はアキラに尋ねた。そして返ってくる言葉も、やはり想定していた通りのことだった。

 

「……今アタシは腸が煮えくり返ってんだよ。それはよ、ちょっとやそっとじゃ治まりようがねぇんだよ、ここにいる連中ッ、全員動けなくなるようになるまでボコボコにしねぇと気がすまねぇんだよっ!!」


 アキラは『風雷』に向けて言い放つ。


「来いよ中身のねぇモブ共が、女一人にビビんねぇよな?」


 本当は、ずっとずっと言いたかった言葉を。

 ()()()()()として堂々と。


「全員まとめてぶち殺してやるッ!!」

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 昭和の番長漫画って普通に人死んでたよなぁ… 毎回腹刺されたり折れたり、だがソレがイイ! そのうち日本統一を狙う番長連合が…無いか(ノ∀`)
[一言] これは好きになっちゃうね
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