『風雷』襲撃 Part3
「ごめんな、買い物ついてきてもらって」
「全然構わないすよ、これくらい」
今日は日曜日、楓太はアキラを連れて近所のスーパーマーケットに買い物に来ていた。
今夜の夕食に使う材料や、皆が好みのお菓子やジュースも許される限り購入する。
連れてきたお詫びではないが、今夜はアキラの好きな物にしようと決めていた。もう何日も八月朔日家で姉妹たちの腹を満たせてきただけあって、それぞれの好物は既に把握していた。
アキラは少しピリ辛系の食べ物が好きだ。以前作った胡麻坦々風の鍋を誰よりも食べていたから、それ以来よく夕食のメニューに選ばれていた。
「今日はアキラの好きな鍋にしような」
「ホントすか! やったー♪」
アキラの足取りが軽くなり、少しスキップしているかのようにも見える。
出会った頃から比べて、楓太のアキラに対する見方はかなり変わった。番長として君臨するアキラに、少なからず恐怖というか、何か後ろめたいものを感じていた。
だが文字通り寝食共にして分かったことは、それも結局は偏見で、蓋を開けてみればアキラは、ただの女の子だった。
朝に弱く、喧嘩と可愛い物と辛い食べ物が好きなだけの少女だった。
「楓太さん」
「ん、どうした?」
「後をつけられてる」
「……え?」
上機嫌のアキラから一転、その表情は言うならば『番長モード』のものだった。後ろを確認しようとして「見ちゃだめ」と小声で止められる。
「なにか心当たりがあるか……?」
「わかりません。恨みを買うようなことはしてるかもしんないすけど」
夕暮れの人通りの少ない道を、足取りを変えずに歩き続ける。このまま家に戻ってしまっていいのかと迷い始めた時。
「楓太さん、走って人混みの中を目指しましょう。それで誰か知らないすけど、後ろのやつら引き離すっすよ」
「そうしよう……」
アキラの合図と合わせて、楓太達は走り出した。すると、実際に振り返って確認したわけではなかったが、その背後から追ってきている事はわかった。
アキラの勘違いではなく、本当に自分たちをつけていたのだとゾッとする。だが逃げ出した事は良かったが、買い物袋を手に持った状態では逃げられるものも逃げられなかった。
それを察したアキラは──
「うぉらァッ!!」
「ぶごっ!?」
振り向きざまに追跡者の顔面に、強烈な拳がクリーンヒット。鈍い音が一瞬聞こえて、気の毒なほどに苦しんで芋虫のように藻掻いていた。
尾行していたのは二人の男で、相方が突然殴られた片方は萎縮してしまっていた。
「なっ、テメっ……!」
「あ? てめーこの前も喧嘩売ってきたやつじゃねぇか。なんのつもりだよ、あぁ?」
その男は華子と下校していた時に喧嘩を売ってきた5人組の一人だった。
男を睨みつけて、威圧をかけていく。その凄みに一瞬怯むが、構わずアキラに向かって襲いかかってきた。
というよりも、なりふり構っていられない……そんな様子だった。
「うぉぉぉっ! 死ねや八月朔日ィ!!」
「るっせんだよテメェは!!」
「ブギっ!?」
足を振り上げて顎を蹴り上げた。
並大抵では無いアキラの身体能力もだが、的確に急所に打ち込める技術も凄まじい。たったの一撃で尾行してきていた二人を制圧してしまう。
「く、くそ……」
「なんでアタシらの後をつけてた?」
男たちに問いかけるが、答える気は感じられなかった。
それで少し気を悪くしたのか、アキラは男の額を片手で掴み、ギリギリと力を込めていく。
「ぎゃあああ!?」
「答えろよテメェ……」
「アキラ、もうそのくらいにしておきな……」
アイアンクローに苦しむ姿に同情して、ストップをかける楓太。アキラも楓太の言う事を素直に聞き入れてその手を離した。
「す、すんません、つい」
「いいや、アキラがいてくれなかったらどうなってたか。こいつらが狙っていたのが、アキラなのか俺なのかはわからないけど……」
しかしそこで、楓太は数日前の会話を思い出す。
最近暴れているという噂のチームを。
「アキラ、コイツらもしかして風雷とかいうチームじゃ……」
「かもしれませんね。……だとしたらめんどくせーことになってきますよ、これ」
アキラは買い物袋を持って歩き出し、これからやることを口にした。
「被害にあった叶のクラスメイトに話聞いてみます。なにか風雷についてもっと詳しくわかるかもしれないすから」
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