愛花の全盛期。
とある日、八月朔日家のリビングにて。
「全盛期、って言葉があるじゃないか」
休日の昼下がり、リビングにてまったりしていた所、俺からそんな話題を投げた。
「あるな、けどそれがどうかしたのか?」
「もちろん言葉の意味を聞きたいわけじゃないけど、ほら。3人はさ、番長って事で通ってるじゃないか」
要は、俺はこの三姉妹の全盛期を知りたいんだ。
もしかしたらそれは今かもしれないが。
「3人にとっての全盛期って、いつなのかなって」
「そういう事なら、私は今かな〜、生涯現役!」
「それは全然違う意味だろ……まぁでも、アタシも今かな。単純に、どんどん強くなってる自覚があるからな」
愛花以外の2人は今が最高だと言う。
と、くれば3姉妹の長女はどうなのだろうか。
「……ん? 私か?」
「なんか澄ました顔でいるしな。あ、でも楓太さん。愛花は多分昔のほうが強かったっすよ」
「あー、確かにそうかも。でも強かった、てより……」
二人してそこで少々黙り込む。
昔の方が強かった、という事は合っているようだが他にも何かあるのだろうか。
「強かった、より怖かったの方が強かった」
「強かったで始まり強かったで終わる」
「……いやでも、それはどういう事なんだ?」
愛花が怖かった、というのも俺にはピンと来ない。
そりゃあ愛花がいつの日か『羅生門』と戦っていた時は鬼気迫る様子を見た事はある。
「言い方を変えれば、今が随分と丸くなったと言うべきかね」
「だねー。愛花姉ぇ、昔はさぁ、お父さんに憧れすぎてちょっと痛々しかったし」
「あぁ、今思えばあれが俗に言う『厨二病』ってやつか?」
その発言がよほど面白かったのか、叶はゲラゲラと笑っている。端から見てもずいぶん好き勝手に言いたい放題だが、後でどうなっても知らないぞ……。
「そこら辺にしておくんだな二人共……」
流石に若干腹が立ったのか、腕も組み足も組み、「私は怒っている」感がこれでもかと滲み出ている。
逆に可愛気が出てしまっている。
しかしそう見えていたのは俺だけらしく。
「……」
「……」
何を感じ取ったのか、先程までの威勢がどこかに行ってしまった。
「……久々に見たぞその座り方」
「嫌な思い出がすぐ蘇ったよ……」
げんなりとした顔になっている。どうやら、この座り方は2人にとって恐怖そのものらしい。
察するに、例の怖かった時期の愛花が良くしていたものなのだろう。
そしてそれが、愛花にとっての全盛期らしく。
「確かにあの頃は強くなりたいの気持ちが大きすぎて、その他の事に気を回せていなかったかもしれなかったがな」
何かを誤魔化すかのように、妙に早口でそんな事を言う。
よほど触れられたくない事だったようだ。
「よく言うぜ、鍛錬とか言ってあたしらボコボコにしてたろ」
「だから昔の事だと……」
「いじめられた方はずっと覚えてるんです〜」
わちゃわちゃと、他愛もない茶化し合い。
そんな光景がずっと続いていく事が、幸せなのかもしれない。




