アキラとお菓子作り。
お久しぶりです。
完結して2年が経ちましたが、書きたいものがまだある為、1話完結のショートストーリーをちまちまとやっていこうと思います!
時系列はバラバラです。
ほのぼのとした物を書ければと思います。
某日、八月朔日家にて。
キッチンに並ぶは、計量カップやゴムベラ、市販のチョコレートに生クリーム、その他諸々。
そして隣にはアキラがいる。
「……というわけで、楓太さん。今日はちょっと付き合ってもらいますよ」
エプロン姿のアキラ。
普段料理をするのは俺くらいのものだから、その姿がまぁ新鮮で。なかなか良い物を見ている気がする。
──さて、今日はどうしてアキラと一緒にここに居るのかと言うと。
アキラの友達──華子というらしい──から作ってきたんだと、クッキーを貰った様で、それのお返しに生チョコを作りたいとの事。
「しかしなんで生チョコなんだ?」
「アタシが好きなんで」
「そっか。美味いもんな。ところで作った事は?」
「いや、無いっす。一度も」
まぁ、だから今回頼られたわけだ。
俺も頼られて嫌な気もするわけもなく、快く引き受けた。けれど俺も生チョコ作り、どころかお菓子を作った事はないから、初めての試みだ。
レシピを眺めながら、慎重に。
「まずは普通の板チョコを細かく刻むみたいだ」
「細かく砕くと」
「えっ、いや刻む……」
ギョッとして振り向けばバキッ! と素手で叩き砕いていた。……そういえば忘れていたな、八月朔日三姉妹は、皆家事がそれ程だったと。
せめて包丁を使って欲しい、と伝えて再度板チョコを刻んでもらう。
「うぅん、こういう細かい作業はやっぱり得意じゃないっす……」
「でも、友達にお返し、するんだろ? だったら、頑張らないとな」
なんとか刻み終えたチョコレートを、ボウルに移す。
その後は生クリームを中火にかけ沸騰直前まで温める。
湯気が出るくらいになれば、刻んだチョコレートと混ぜ合わせる。
「こうすか?」
「う〜ん、もう少し早くてもいいんじゃないか? 持ち方を、こうしてこうやって……」
横からじゃやりにくいから、アキラの背後から回る。
アキラの手を掴み、大体の力加減を覚えてもらう。
「ひゃっ……!?」
「ちゃんと混ざらないと、上手いこと出来ないみたいだからな」
妙にアキラの手が熱い。
湯煎の為沸かしたお湯のせいか?
「……よし、多分これくらいでいいな」
クリーム状になったチョコレートを、器に移し冷蔵庫でしばらく冷やす。
いざここまで済ませてみると、案外簡単だったかもしれない。
「……いや、ホント。楓太さんってそういう事、さらっとするっすよね」
やや顔が赤いアキラに、への字口でそんな事を言われる。
そう言う事、とはさっきの手を掴んだ事だろうか。
確かに、あんまり簡単に女子の手を掴むものではなかったかもしれない。
ただ、自分で言うのもなんだがこの八月朔日家にも慣れてきていて、アキラだけじゃなく、愛花、叶とも関係を築けていると感じていた。
けれど、弁える所はそうするべきだったか。
「あっ、嫌だったわけじゃなくて……むしろ良いってーか……でもびっくりしたんで、今度お詫びしてください」
「お詫び、ね……俺が出来る範囲で頼むな」
☆☆☆
冷蔵庫でチョコレートを冷やして1時間。
しっとりとした生チョコに変身していて、後は食べやすいサイズに切り分けて、ショコラパウダーをかけて完成だ。
「おぉ、良い見た目になったな」
「めっちゃ美味そうっすね! ……これなら、渡しても恥ずかしい、か」
用意していた包、入れ物に生チョコを。
量がそれなりにあり、包は2つ出来上がっていた。
「上手く出来て良かったな。友達、喜んでくれるといいな」
「はい……それも、そうなんすけど」
手の上で何やら持て余している。
わずかな沈黙があったかと思えば、アキラは2つある内の一つを、俺に手渡してきた。
「楓太さん、その……いつもアタシらの為に、ありがとう、ございます。……こんな事でお礼ってわけじゃないすけど」
「アキラ……いいのか?」
「はい。……華子にお返しは本当ですけど、楓太さんにも何かしたくて」
……こんなに慕ってくれていると、自然と嬉しくなって口角が上がってしまう。
「ありがとうな、アキラ」
「……うっす!」
ひとくち食べた生チョコは。
口の中で、ほろりと溶けていった。




