『風雷』襲撃 Part2
「ねぇアキ姉ぇ、風雷って知ってる?」
八月朔日家での夕食時、雑談の一つして飛び出してきたのは、アキラが帰り道に華子から聞いたばかりのチームの名前だった。
「なんだ、それ最近流行ってんのか」
「俺は知らないな、なんなんだそれ?」
「最近目立ち始めた不良グループだよ。私のクラスでもやられてる人がいるの」
楓太の作った青椒肉絲に4人の箸が向かう中、物騒な話だなと楓太は眉をひそめた。
「それに今は、詳しくは知らないけどずっと誰かを追ってるらしいよ」
その誰かはよっぽどの事をしたんだろうね、と叶は他人事のように笑った。実際のところ他人事なのだが、仮に標的にされているのが自分だったとしても恐れることがないからだろう。それは叶だけでは無く、ここにいる3人姉妹全員に言えることだろうが。
「でも、変な騒動には巻き込まれないようにな? 3人ともいろんな奴と喧嘩するんだから、気付かないうちにその風雷とやらと会ってるかもしれないぞ?」
この3人に染まってしまったのか、もう喧嘩はするなとは言わなくなった楓太。最近では喧嘩はしてもいいけれど、怪我だけはするなよと少々心配するところがおかしい状況だ。
「問題ないすよ、アタシらもそんなポッと出の奴らにゃ負けないから」
「同意だな。むしろこちらから探し出して壊滅させてやってもいいくらいだ」
「頼もしいのか恐ろしいのかわからなくなるな……」
「それより、楓太兄ぃこそ気を付けてね? 誰彼構わず襲うみたいだから」
叶の言う通り、人の心配をしているが襲われて一番危険な目に遭うのは間違いなく楓太だった。
喧嘩の経験もなく、人を殴った事も無い。平和主義者の楓太からすれば、チームを組んで人に迷惑をかけていく事が理解できなかった。
「わかってるさ。……そうだ、全然違う話だけど。アイス買ってきてるぞ」
楓太は買い物ついでに3人が喜ぶかなと、まるで本当に親心のような気持ちでアイスを選んでいた。
無駄遣いをしないように節約をしつつではあるが、ある程度の出費は良いだろう。
「わーい! ありがと楓太兄ぃ!」
「ありがたい……」
「チョコのある?」
「あるよ」
風雷の話などもう忘れてしまって、いつも通りの八月朔日家の日常に戻っていた。決してそのチームのことを軽んじているわけではないが、楓太達は心のどこかで、ニュースで見る他県の事件のような感覚だった。
悲惨なことではあるけれど、自分には関係はないだろうと。叶のクラスメイトが被害にあっているが……。
(華子にも気を付けるように言っとかねーとなぁ……)
アイスにスプーンを突っ込みながら、ただ一人友達の心配をするアキラだった。
★★★
風間は情報収集を怠らない。標的を仕留めるために、一切の妥協をせず、関係者を調べ上げてさせて用意周到に状況を作り上げていく。
半グレの枠を超えて、まるでヤクザのようだ。それが風雷の恐ろしいところなのだろう。
「吉川華子……それか、この宮下楓太とかいうやつを拐ってこい。ちゃんと一人でいるところを狙えよ、お前たちじゃアキラには敵わない」
「はい……あの、雷さんは」
「あいつは手荒過ぎる。ここに連れてきてからが出番だ」
作戦や頭を使った事は風間が担当し、腕っぷしや力がいる事は雷に任されている。
雷の強さは風間も絶大な信頼を置いているが、好き勝手に暴れさせてしまうと喧嘩ではなくなってしまい、後々が面倒なことになってしまう。
だからこそ、雷を出すのは最後の最後だと風間は温存している。今はそのための下準備とも言える。
「それぞれが一人になりやすい時間帯はもう分かったな? 明日以降実行だ」
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