銃声。
もう、意識があるとか無いとか。
そんな事を考えていられなかった。
ただただ食らいついて、偶然の一手を食らわせる。
「うぜぇんだよこのッ!」
「ぐぐぐっ……!」
不格好な殴り合いの喧嘩。
スマートさは無く、ただ力を込めた拳を相手に叩きつけるだけだった。
床を転がり、立ち上がって相手にしがみつきまた地を這う。
それの繰り返しだった。
歯が飛ぶ。
口の中に血が溜まり、食道へと流れてむせ返る。
まるで吐血しているかのように飛び散る。
「きったねぇなぁ!」
「うるぜぇっ、げほっ!」
この喧嘩の終わりはいつくるのだろうか。
……そんなものは決まっている。俺が倒れるか楓斗が倒れるまで続く。
「楓斗……もう、お前は……引き返せなくなってるだけだろう?」
「あぁ!?」
どれだけの恨みがあるのか、楓斗の気持ちは計り知れない。だけどそこに、罪悪感がないわけはない。
楓斗はその罪悪感に押しつぶされそうになっているんじゃないのか?
自暴自棄、暴走……俺の推測でしかないが、そうじゃなければ救えない。
俺の弟を。
「なぁ楓斗っ……今からでもこんな事やめるんだ……」
「うるせぇ、今更……!」
……今更、という言葉にやはりかと、安堵に近い何かを覚える。
しかし、現状が大きく変わるわけではない。
何にせよ、楓斗を説得する他道はない。
だったら……!
(結局勝つしかない、言葉だけで届かないのなら!)
そう決意を新たにした矢先だった、部屋の外から聞き慣れた声がしたのは。
「楓太さーん! 助けに来たぞっー!」
アキラの声だ。
そしてその後に、叶と愛花の声が続けて聞こえた。
「はいるなっ!」
中から叫ぶ。
御剣も止めてくれたかもしれないが、俺自身の言葉で。
当然だが皆が困惑していることが、姿が見えなくても伝わった。
「これは俺の……俺と楓斗の問題だ」
俺は楓斗の腕をつかむ。
だが押さえつけるためじゃない。
俺の話を聞いてほしかったからだ。
「楓斗っ、お前のその復讐心はどこからきた? やったことはどうしようもないけど、一体誰が……!」
「ぐ、ぐ、お、俺は……」
視線が定まっていない。
動揺がまるで隠せていない。
「楓斗……教えてくれ、今までお前に、一体なにが──」
あったんだ、と楓斗に問いかけたかった。
それと、まったく同じタイミングで。
どこからともなく、銃声が響いてかき消された。
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