恨み。
「楓斗が藤城組の組長……?」
「そうか、遺言にあった奴ってのは、お前のことか」
なんの冗談か、どうやら楓斗が組長……あれだけの人数がいた構成員たちを束ねているらしい。
「まぁそれはどうだっていい……俺の目的はようやく実現できる」
「……お前のことはどうでもいいが、一つ聞かせろ。なんでコイツの親父、猛さんを殺したんだ」
それは俺の親父でもあるんだがな、と頭をかく楓斗。
どうして楓斗はこうも余裕をもった態度でいられるのだろうか。
窓の外を見ると、もう立っている人間はいなかった。
全てをなぎ倒し、あの頼もしい三姉妹も向かってきているはずだ。
「それは俺の復讐のためだ。……俺を見捨てた親父への」
「見捨てた……?」
「親父は連れ去られた俺を取り戻そうともしないで、お前との生活を選んだ。まるで俺のことは、最初から居なかったように振る舞って……」
……確かに楓斗の存在はずっと知らなかった。
こんな事がなければ、知ることは出来なかっただろう。
楓斗の言いたいことも分からないでもない。
だがそれを許容をしていいわけがない。
「俺は今まで、ここで育てられた。それもムカつくんだよ、ずっと、ずっとここにいたのに。デカくなってすれ違っても気づきやしねぇ」
「……ここで育てられた? 何のために……」
「俺が知るかよ……でも今は感謝してるんだぜ、おかげでこの復讐の機会が得られた」
「……何度でも言うがよぉ」
青筋を立てる御剣。
今すぐにでも殴りかかっていきそうだ。
「お前のこれまでになんか興味はねぇし、同情する気もないが……殺す必要までは絶対にない、それだけは馬鹿でもわかるだろ」
御剣の言葉を聞くと楓斗はわざとらしく大きなため息を吐く。
「関係のないやつが横から出しゃばってくる事ほどムカつく事もねぇよなぁ……」
そしてどこに隠していたのか、楓斗は拳銃を構える。
その銃口を御剣に向ける。
「用があるの楓太だけだ、お前は出ていけ」
……御剣はそれを聞きいれる素振りを見せない。
だけど、楓斗に用があるのは俺も同じだった。
「御剣、ここはそうしてくれ。俺もコイツとはカタをつけないといけない」
「……だが」
「頼む」
納得はしていない表情だ。
そして俺を見て一言だけ。
「様子がおかしくなれば、あいつを殺してでも止めるからな」
「……あぁ」
そう言って御剣は部屋の外へ。
残された俺達兄弟の間には、とてもじゃないが修正が可能とは思えない、真っ暗な闇があった。
「俺がやりたいことは一つだけだ」
「なんだ」
「兄弟喧嘩しようぜ、簡単に復讐が完了しちゃ面白くねぇだろ」
俺が勝てば殺す、俺が負ければ素直に自首でもなんでもしてやるよと言う。
……よほど自信があるのだろう、復讐がしたいのなら今ここで撃ち抜けばいいのだから。
(いや、もしかしたら……)
一つの仮定。
それを口にする前に、俺達の兄弟喧嘩は始まった。
「ぶっ殺してやるよ」
「口の聞き方から教えてやらないといけないか……!」
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