楽しみだぜ。
「……は?」
「聞こえなかったか? 宮下猛は、俺が殺した」
楓斗はなんでも無い事に言いのける。
理解が追いつかない。突然現れた生き別れの弟、そしてその弟が、実の父親を殺したというのだ。
瞬時に理解して、納得ができる方が異常だ。
「何言ってるんだお前……」
「俺の復讐のためにやったことだ」
復讐……それは親父に対するものなのか?
だが楓斗が攫われたのは1歳のときのはずだ。親父との記憶もあるとは思えないし、あったとしても復讐心が芽生えるような事柄はなにもないはずだ。
「……お前だって、当時のことは人から聞いただけだろう。だから何が本当かなんて俺が決める」
「楓斗、お前誰に何を吹き込まれたんだ?」
問いかけるが、楓斗は聞く耳を持たない。
そのまま立ち上がり、歩きだす……俺に、一言だけ残して。
「話がしたきゃ組まで来るんだな……俺は、俺を巻き込んだ全てに区切りをつけて……新しい俺を始める」
そのために親父を殺したんだと、改めて楓斗はそう吐き捨てた。
だけど……。
「お前にも、何か抱えているものがあるのかもしれないが……今言った事が本当なら、俺は許さないぞ、絶対!」
「許さないなら何なんだよ」
「決まってるだろ……兄貴として、弟に間違っている事は間違っているとはっきり教えてやらないとな」
難しい事は何もない。
俺が正したいことは、一つだけ。
そこには弟だから、父親だからではない。
復讐であろうと、何であろうと、人を殺して良い訳はどこにもない!
「楓斗、これだけは言える。お前がやっていることは、到底許されないし意味のないことだ」
仮に、それが許される事であったとしても。
俺はそれを許容しない。
そして俺の発言に、楓斗は足をを止めた。
振り返り、俺を睨むその表情には、怒りが隠されていなかった。
「別に誰に説教されようと構わねぇんだけどよ……ぬくぬくと愛されて育ったお前に言われることだけは、虫唾が走る……」
楓斗はそれだけ言い残して去っていった。
……楓斗の真意は読めないが、このまま放置しておくことさ出来ない。楓斗は藤城組まで来いと言っていたが……。
「いや考えている場合じゃない……」
もう俺達は再会してしまったし、新たな火種は巻かれてい。
まず俺にできること……弟の過ちを、正す事が兄の仕事だ。
俺は公園を飛び出した。
藤城組へと向かうために。
その道すがら、俺は見覚えのある子を見かけた。
「あれ、叶のとこの……どうしたんですか、そんなに慌てて」
その小さな体より何倍も大きなバイクにまたがり、けたたましいエンジン音を響かせている。
確か名前は、西本彩愛。
「もしかして、さっきから騒ぎになってる暴力団のところにでも野次馬? 警察も動き出してるみたいだし、巻き込まれたら面倒だと思うけど」
「いや違うんだ、実は──」
俺は今置かれている現状を簡潔に話す。
藤城組が俺を狙っていること。
それに抗うため、叶達が先手を打ち突撃していること……それが今の騒ぎを引き起こしているのだと。
「なにそれ……だいぶトンデモな状況」
「そういうことなんだ、だから今は……」
「ならわたしも行く」
「……え?」
……なら、ってどういうことだ。
今話した通り、いたずらでは済まされない事実を知って、どうして……。
「友達がそんな状況なら、助けに行くのは当然よ。……それに心配しないでくれる? 叶ほどじゃないけど、結構強いんだから」
彩愛はバイクのエンジンを震わせる。
「乗って。一気に突っ込んでやる」
「……」
……覚悟、か。
どうしてそこまで迷いもなくいられるのだろうか。
……それはきっと、さっき言っていた事が全てだろう。
友達のため。
「……俺も、そんなもんだな」
「なに?」
「いや、なんでもない……頼む!」
「言われなくても!」
猛スピードで走り出す。
いざ、決戦の地へ。
今回もここまでお読みいただきありがとうございます!




