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あの日からずっとね。


 眠れない夜だった。

 興奮しているのか、目が冴えて仕方ない。


(散歩でも行こうかな……)


 音を立てないように着替えて、俺は玄関へ行き靴を履いていた。

 すると、2階から誰かが降りてきた。


「楓太……どこ行くの?」

「愛花か。ちょっと散歩にでも行こうかと」

「散歩……私も行く。一人じゃ危ないよ」


 愛花も寒くない格好に着替えて、俺と一緒に真夜中の散歩へ。

 冷たい空気が心地良い。誰も歩いていない、見慣れた道もこんな夜だと別世界みたいだ。


「……ありがとうな」


 俺は歩きながらそう呟いた。

 アキラにも叶にも、真奈美さんにも伝えるつもりだけれどまずは隣りにいる愛花に。


「助けてくれて、ありがとう」

「……まだこれからだよ。それに、楓太の友達のためにも、ね」

「あぁ……小町には本当に悪いからな、俺のせいで巻き込まれて」


 片が付いたら小町にも謝らないとな……。


「……ねぇ楓太、その小町って人は……本当にただのトモダチ?」

「うん? あぁ、小町とは普通に友達だけど」

「ふーん……」


 愛花の歩幅が小さくなる。

 合わせて俺も少しペースを落とす。


「私、最初その人は楓太の彼女なのかと思ってた」

「まさか、小町とはそんなんじゃないよ」


 小町が彼女……ねぇ。そんなの考えたこともなかった。

 それにあの頃は彼女だとかそういうものに気を使えるような時期でもなかったし、小町以外の女子にも意識はしていなかった。

 ……今の環境は、なかなかドキドキするものなんだけど。


 だから、と言い訳をするわけではないけれど。

 そうやって形成された俺の恋愛だとかについての考え方のせいで、俺はアキラと叶に応えを出せないのかもしれない。


 ……あんな可愛い子達に好きだって言ってもらえることは幸せなことなのかもしれない。

 キスをした事だって、羨ましがられるのかもしれない。


 でも、俺は……。


「なにか難しい顔してるね」

「あ……悪い、また顔に出てたか」

「うん。楓太は隠し事はできないタイプだね」


 愛花に突っ込まれ、俺は誤魔化すように自販機の前で立ち止まる。


「なにか飲むか」

「ホットレモン」


 ご要望に答えて、二人分のホットレモンを購入した。

 寒い外で飲む温かい飲み物は体中に染みる。

 

「ところで楓太」

「ん? なんだ?」

「結局楓太はアキラと叶、どっちを彼女にするの?」


 思い切りむせた。

 少し鼻に逆流してしまう。咳き込んでいると愛花が心配して背中を擦ってくれた。

 だが俺の頭の中はいまの発言についてでいっぱいだった。


「な、なにを突然……」

「隠さなくてもいいよ、2人から話も聞いてたし」


 意外と自分たちの色恋について話すんだなと少し驚く。

 ……ふつうは隠すものだと思っていたから。


「モテモテだね楓太。美少女2人から告白されるなんて」

「……やっぱり姉目線でも可愛いって思うんだな」

「そりゃあ思うよ。どこにいてもあの子たちは可愛いって言われると思うよ」

「ははっ、まぁ3人揃って美人姉妹だなんて言われてるくらいだしな」


 ホットレモン混じりの吐息が流れてくる。

 愛花がこちらを見ていたからだ。その視線は熱を帯びていた。


「それはつまり、私のことも可愛いって思ってるってことでいいのかな?」

「え、いやまぁそれは……」

「どうなの?」


 ずいっと身を寄せてくる。

 可愛いと思っているか? だなんて、そんなものは決まっていた。


「そう、思ってるよ。……みんな可愛いさ」

「……ちょっと違うかな」

「違う?」

()()()、はちょっと違う」


 愛花が言わせたいこと。

 それはさすがに、その手のことに疎い俺でも伝わった。

 

「可愛いよ、愛花は」

「ふふ、そっか。良かったぁ」


 俺の言葉に愛花は隠さずに喜んだ。

 嬉しそうに、微笑んで。


「それを聞けて良かった。……じゃあ、私も勇気だそうかな」


 正面に向かい、愛花は俺の目を見つめていた。

 少し硬い表情だったけれど、それもすぐに解けた。

 そしてその口から放たれた言葉は、この寒さをいともたやすく吹き飛ばした。


「私もね、楓太の事好きなんだ。……だから絶対、楓太の事守るよ」

今回もここまでお読みいただきありがとうございます!

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