理由なんてたった一つ。
話すつもりは無かった。
話せば本当に巻き込むことになると思っていたからだ。
それに今回は条件も条件だったからだ。
御剣に協力しないのならば、俺は藤城組に。
協力するのなら……皆を危険な目に合わせてしまう。
きっとこの三人は、協力すると言ってくれるだろうが、俺はそれを避けたいんだ。
……けれど隠し事もしたくはなかった。
俺は御剣と再開し、そこで起きた事、話された事を共有した。
「……ちょっと待って下さいよ、じゃあその昔殺された人って……母さんの姉……ですよね」
「そうだろうな……真奈美さんに聞けば確証がつかめるんだけど」
「じゃあ楓太兄ぃはお母さんの……えーと……」
「甥っ子になるな」
八月朔日、なんて名字はどうやら全国に200人程度しかいないらしい。だからその線は濃厚だろう。
「籍いれてなかったんだな、とかは今はどうでもいいけど……もしもその話が本当なら、母さんは知ってて隠してるんだよな」
「内容が内容だからな。自分の子供に話すことじゃないと判断したんだろう」
「……でもこれ、やばいよね。お母さんにとっても、因縁の相手だよ」
「真奈美さんの姉、つまり……俺の母さんを殺したやつがいた暴力団、だからな」
気になることはまだまだある。
御剣の話が真実なら、俺には双子の弟がいるようだ。それは今回の件には関係ないだろうが、やはりその行方は気になる。
「……てか、楓太さん。なんで話さないつもりだったんスか」
「お前たちを巻き込むわけにはいかないからだ……俺は藤城組に行く」
「……馬鹿なことを言うな楓太。そんなこと、私達が許すと思うのか?」
「だけど……!」
「わたしたちは楓太兄ぃがどこかに行っちゃうことが嫌だよ!」
たまらず俺はグッと来てしまった。
どうすればいいかわからないこの現状で、そんな言葉をかけられたら。
「でも……俺は」
「いやいや、楓太さんが何を言おうとアタシたちは戦いますよ」
「無論だな。黙って楓太を送り出すわけがない」
「私達3人揃えば無敵なんだから!」
忘れていたことがある。
そうだ、この子達は……この3人には、怖いものなんか無かった。俺までもが勇気を貰えそうになるほど、迷いや曇りはなかった。
……結局のところ、口ではなんだかんだとは言っていたが、俺はきっと助けてほしかったんだ。
この状況から抜け出すために、力を貸してほしかったんだ。それを伝える勇気が無かった。
「なんでそこまでしてくれるんだ? ……俺は、ただの居候……」
「そんなの決まっているだろう、楓太」
「今更言わせないでくださいよ」
「私達みーんな、楓太兄ぃの事が大好きだからだよ!」
その言葉にどれだけ救われただろうか。
やっぱり俺は、みんなと離れたくない。
ここにいるみんなが……俺の大切な家族だ。
「……ありがとう、みんな」
「アタシ等がしたいからすよ。でもその前に……話を聞かなきゃいけない人がいる」
その相手の顔は、俺の頭にも浮かび上がっていた。
「母さんに話を聞こう、確実に他にもなにかを知っているはずだ」
今回もここまでお読みいただきありがとうございます!




