顔に出ちゃってるよ。
「なら……お前を藤城組に差し出したって構わないんだな?」
御剣の言葉は本気だった。
脅しじゃない、今ここで俺が協力しなければ、御剣は俺を連れ去るのだろう。
御剣が本気を出せば俺なんていともたやすく、なんの抵抗も出来ないままに、その藤城組のところへと。
「っ……」
「……一晩だけ考えてくれ。また明日訊きに行く……俺だってこんなことしたくねぇんだ」
「……わかっ、た」
俺はなんとか生き延びた今日にほっとしつつ……一つだけ御剣に尋ねた。
「……自分で頼もうとは、思わなかったのか?」
「俺より、お前から頼んだほうが事がスムーズに進みそうだからな……」
「……そうか」
それはどうだろうなと返し、俺は御剣の部屋から外へ。
たったの30分程度の時間だったが、それがとてつもなく長い時間であったかのような感覚に陥る。
青く澄んだ空が、こんなにも皮肉に思える。
あの重々しい曇天模様の部屋とは、違いすぎて。
それにお似合いの足取りの重さで、俺は家へ帰った。
皆が待つあの家に。
★★★
「おかえりー! 楓太兄ぃ〜」
にこやかな笑顔と一緒に、叶が出迎えてくれる。
俺は出来るだけ心の内を悟られないように、平常心を装いながら返事を返した。
「ただいま。ごめんな、ちょっと遅くなって。すぐ夕飯の準備するからな」
一先ずは手を洗うため洗面所へ行くが、先客がいた。
「あっ、おかえりなさいです、楓太さん」
「あぁ、ただいま」
髪をドライヤーで乾かすアキラ。
鏡越しに言葉を交わし、そのままリビングへ。
そこでソファに腰掛け読書をしていた愛花にも。
「ただいま」
「あぁ、おかえり。遅かったな」
「ちょっとな。すぐ飯にするからな」
「それなら私も手伝おう。なにかやれることはあるか?」
それならと、俺は愛花に味噌汁用の豆腐や油揚げを準備してもらう。
それと、今日のメインの油淋鶏用のたれを。
「余ったら、唐揚げは明日の弁当にいれるからな」
「それはいいな。……だが残る気はしないぞ、楓太の唐揚げは美味しいからな」
「ははっ、ありがとうな」
会話混じりに、さくさくと唐揚げを作り上げていく。
慣れれば簡単で美味しい唐揚げは、どこの家庭でも人気だろう。一人暮らしとかだと少し面倒かもしれないけれど。
「……で、だ。楓太。なにか、嫌なことでもあったのか?」
「え?」
パチパチと弾ける油ではかき消せなかった。
図星、というやつだ。俺は否定するでもなく、虚を突かれたその感覚にわかりやすい動揺をみせた。
「やっぱりか。顔をひと目見た時からおかしいと思っていたんだ」
「あ〜、それアタシも同じ。鏡越しでもわかった、楓太さん暗い顔してて」
「私も私も。今日は疲れたのかな〜、なんてのんきに考えてた」
「そ、そんなに顔に出てたか!?」
3人揃って「出てるよ」と返された。
そういうのなら……そうなんだろう。俺はそれを気取られないように、いつも通りを演じていたのに。
「話してくださいよ楓太さん。……アタシたちに隠し事はなしですよ」
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