交渉決裂。
随分と、長い話だった。
それだけ事細かに話してくれたことも驚きだが、なぜそんなことを知っていたのか。
「俺はお前の親父さんと何度か飲みに行ったことがある。その時に、酔った猛さんが話してくれたんだ。でもあの人がお前の父親だと知ったのは最近だし、確信がついたのも、な」
「……そういえばあんたも暴力団員ではあったな」
「あぁ、今は違う。だが、お前を連れ去ってこいと命令されている……小町を人質にされてな」
つまり御剣は、やらざるを得ない状況に追い込まれているんだ。けれどそのリスクを負ってまで、俺に全てを話してくれた。
「俺は小町を人質にしていることも、お前を売ることも気に食わねぇ。それに、猛さんにはさんざん面倒を見てもらった。……それの敵討ちもやらなきゃいけねぇ」
「……教えてくれる、んだよな。誰が親父を殺したのか」
藤城組の誰なのか。
御剣はゆっくりと話し出す。
「前組長の永政が死んだあと、遺言状に次の組長候補の名前があったようだ……そいつと言われている」
「誰なんだよそいつは、今の組長ってんなら、名前くらい……」
「……悪いが、そこまでは俺も知らされていない。ただ目指すべき場所は決まっている」
藤城組を潰すことだ、と。
相変わらず無茶なことを言う御剣に、俺は少し呆れた。
たった2人でどうすれば暴力団を潰せると言うんだ。
そんな俺の気持ちなど知らず、御剣は続ける。
打開策、とでもいうつもりなのかもしれないが、絶対に首を縦には振れない事を。
「あの三姉妹を頼りたい」
「……!? 何言ってるんだ、そんなことさせるわけないだろ!」
思わず御剣に向かって怒鳴り上げてしまった。
だがそうだろう、そんな危険なことに巻き込んでいいはずがない。
確かに愛花、アキラ、叶がいれば百人力ではあるだろうが、それとこれとは話が別だ。
確かに藤城組長に親父が殺されたことが事実ならば、俺も憎むし仇を取りたいと思うさ。
けれど、現実。どう判断すれば暴力団相手と戦うなんて出来るだろうか。その上関係のない子達を巻き込んでまで。
「確かに皆とんでもない強さだ、だけどそういう問題じゃない……悪いが、復讐は一人でやってくれ……俺は今の平和を大事にしたい」
「……そうか。まぁわかってたさ。悪かった、忘れてくれ」
俺に手伝う意志が無いことを伝えると、御剣はそれ以上無理に頼みはしなかった。本当に俺が断るとわかっていたように。
「……なら」
「?」
御剣は立ち上がる。
俺を見下ろす。
そして俺に告げる。
「なら、お前を藤城組に差し出したっていいんだな。……俺にも守らないといけない妹がいるんだよ」
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