宮下猛 Part7
「おーし、素直に答えろよ。……誰の指示でここでブツ売ってた」
「ぐ、ぐ……」
待ち伏せして、藤城組の島で悪事を働く不届き者を捉えた猛は、とりあえず痛めつけて主犯者を吐かせようとしていた。
それが組全体での行いなのか、一部の人間の考えなのか。それによってこれからの処置も変わってくる。
「あんた……藤城組の……宮下……」
「あ?」
歯がかけたチンピラが、崩れた滑舌で名前を呼ぶ。
「藤城の、飼い犬……番犬がよ……」
「何だお前。死にたかったんなら早く言えよ」
イラッときたから追い打ちをかけるように、かけた歯を根本から折ってしまう勢いで殴りつける。
途中から意識を失っていたが、構わず殴り続けた。
「あぁしまったな、誰からの指示が聞き損ねた。まぁいいか、連れて帰ろう」
むしろ黙ってくれて好都合かと、それこそ自分に都合のいい納得をして、猛はその男を抱えて事務所に戻った。
★★★
「あいつなんか吐いたか?」
「案外ゆるかったすよ。6つ目の爪剥いだら、ぽろぽろと」
「どこ?」
「……いやこれ、マージでやばいすよ。正直嘘であってほしいす」
拷問を任せていた遠藤から猛がそこで聞かされたことは、とてもじゃないが信じられない事だった。
まず、藤城組の島で半グレのチンピラ共にクスリを売らせていたのは……藤城組の人間だった。
「どうなってんだよ、じゃあ內部にいるってことか」
「そういうことすよ。名前も聞き出せりゃよかったんすけど……」
「死んだか」
「死んではないすよ。ただ、口を割りそうには……」
恐らく相当の圧をかけているのだろう。もしもバラされれば、リンチどころじゃなく殺されると読んで。
そこまでして金が欲しいのかと少し呆れるが、あながち人のこともいえないかもなと改める。
猛も今は、出来る限り金が欲しい。
その方法がこれしかないと言われたら、やってしまうかもしれない。
「とりあえず親父に伝えてくる。遠藤、お前は引き続き、誰の指示かを聞き出してくれ」
「了解でっす」
★★★
「そうか、うちの中から……」
「やつの口から出任せかもしれませんが、どうしますか。徹底的に虱潰しに探し出しますか」
「他の誰にも知られてはいないんだな……?」
「えぇ、知っているのは、親父と俺と遠藤だけです」
複数人で取り掛かっていなくて良かったと、藤城組の長、永政大吾郎は眉間を抑えながら言った。
永政は藤城組の九代目組長だ。
永政は人の地位やそういうものに拘らず、本人の人間性を重要視する。
それ故猛は若頭でもなんでもないが、よく側に置き仕事や頼み事をしていた。
「よし、ならお前にはその人物の特定を任せる。だがあまり目立ちすぎるなよ、こんな事が他の連中に漏れりゃ組内で疑いの視線が飛び交う……お前で良かったよ、これが立場のあるやつだったら、好きに動き回れねぇからな」
「分かりました。まずはとっ捕まえた奴から聞き出せねぇか試したあと、探し出します」
「頼む」
組内での犯人探し。
これは骨が折れるぞと、ある程度は覚悟していた猛であったが、その予想は案外肩透かしに終わると分かるのは、その翌日であった。
今回もここまでお読みいただきありがとうございます!




