表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/134

宮下猛 Part6


 楓太と楓斗が産まれてから、猛の二重生活が始まった。

 文香たちとの生活、極道としての裏の生活。


 最初こそは、勢いだけでなんとか出来ていた。子供が産まれた興奮と、自身が父親になった非日常感に、アドレナリンは全開だった。


 しかしそれも次第に誤魔化しが効かなくなり、猛の疲労は目に見えて蓄積していく。文香や、組の者からも心配された。


「猛さん、最近大変そうですけど……大丈夫ですか?」

「俺は別になんてことはない……むしろそっちこそ。双子の世話なんて苦労するだろう」

「でも、それも幸せの過程ですよ」

「……そうか」


 1歳になった2人の寝顔を眺める。

 まだこの世の何も知らない、誰にも恐れられもしない無垢な存在。

 今は、この2人、いや3人が猛にとっての世界の中心だった。


 出来ることならば、組を抜けてカタギに戻り文香の側にいてやりたいのが、猛の望みだった。だがそれだけで事が進むほど優しい世界でもない。

 その上猛は、現在の藤城組にとって必要不可欠な存在。他の事情があろうとなかろうと、どちらにせよ今はまだ抜けられそうにもない。


「今度、散歩にでも出掛けよう。楓太と楓斗と一緒に、太陽の光を浴びないとな」

「ふふ、楽しみにしてますね」


★★★


「……クスリですか」

「そうだ。うちの島で勝手にバラまいてやがる。別に物自体はどうでもいいんだが、人の庭で好き勝手やられたらいい気はしねぇ。……宮下ぁ、こいつらちょっと痛めつけてこい」

「はい」


 組同士の争いはいつも絶えない。

 面子、金、力、それらに拘って闘い続ける。

 事務所を出た猛は、クスリの売買を行っている連中を探す。虱潰しに探すのもいいが、向こうから声をかけてくるのを待つのも一つの手だった。 


 だがそれが出来るのは、他の者だ。

 猛には少し難しい。猛の話は、他の組にも十分に知れ渡っている。下っ端は猛に恐れ慄き、姿を見つけたらそそくさと逃げ出す。

 だから猛に出来るのは、見つからないようにその売買人が来るのを待つことだ。


「まぁ……それしかねぇか」

「何がそれしかないのよ」

「あ?」


 振り返るとそこには真奈美がいた。

 だが一つ、違う点があるとすれば。

 その腕には、見慣れない子供がいた事だ。


「……そうか、忘れてた。お前も子持ちか」

「見せてないなー、って思ってね。ほら、愛花っていうの」


 真奈美も猛と同じ様に、一年前に子を授かっていた。

 何やらその相手は、とんでもない武力を持った男らしいが、猛には詳しいことは分からなかった。

 

「しかし、あんたが義理の兄になるとはね」

「俺も驚いたけどよ。……まぁ、別にいいだろ」


 文香は真奈美の姉だった。特徴的な名字の時点で、猛は察してはいたが、あまりにも正反対な彼女たちに、実際に確かめるまでは確証がつかめなかった。


「まぁ幸せにしてあげてよ。じゃね。あんたも綺麗なお仕事でも始めなよ」


 そう言って真奈美は立ち去っていった。

 幸せそうに、腕の中の愛花を抱いて。


「……綺麗なお仕事、ね」


 それができるのなら、とっくにしていると嘆く。

 それをさせてもらえるのなら、対抗事務所を単身で潰してみせると嘯く。


「それも自分で選んだ道か……」


 路地裏で身を潜めながら、タバコに火を付ける。

 吐き出した煙が、この先の猛の未来のように。

 ゆらゆらと、不規則に漂い、消えていった。

今回もここまでお読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ