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宮下猛 Part4


「……産むのか?」

「はい、私はそうするつもりです」


 猛はいつもの喫茶店で、彼女の淹れてくれたコーヒーを飲みながら話をしていた。

 

「いいのか、わざわざ店閉めたあとに」

「ここ、祖父のお店でして。ある程度は好きにさせてもらえるんです」


 確かに渋めの初老の男がいたなと、曖昧に、うっすらとカウンターにその姿を思い浮かべた。 

 それよりも、だ。


「……俺は」

「分かってます。……無理に責任を取れなんていいません。あの日は、私にも問題がありましたから」

「いや、そうじゃない。あんたには、隠してることが多すぎてな」


 猛はそこで今まで秘密にしていた、自分自身のことを話した。暴力団の一員であることを。

 それを聞いた彼女も驚きを隠せてはいなかった。

 なぜ今このタイミングなのか、それは猛なりの気遣いだった。


「俺としては責任を取ってやりたい。だがそれに付きまとってくるものが、邪魔すぎるんだ」

「……暴力団ということですか?」

「そうだ。必ず不自由をさせる……だが心配はするな、養育費やらなんやらは……」

「猛さん」

 

 猛の発言を遮る。

 店内はホコリが落ちる音さえ聞こえてきそうだった。この世界からの静寂をかき集めて、そこに置いてきたみたいだ。


 間を置いて、彼女は話しだした。

 猛は静かに彼女の意志を聞いた。思えば初めてかもしれない、これだけ真剣に彼女の、いや女性からの話を聞くのは。


「私は何も構いません。あなたが、どういうところにいようと」

「だが俺は……」

()()()を信頼しているんです。……これから産まれてくる子も、お父さんが居ないなんて可愛そうじゃないですか」


 そこは、男と女の価値観の違いだろうか。

 それとも、母親と父親の違いか。

 猛は将来的に、自身の存在が二人にとって障害になるのからいない方がいいと感じていたから。


「……わかった。あんたの覚悟は、良くな」

「じゃあ……」


 結婚、とは言えなかった。

 籍を入れれば、彼女も抗争に巻き込まれないとも言い切れなかったから。事実婚として、二人は夫婦の形を取った。


「実は、名前……決めてるんです」

「そうなのか? 聞かせてくれよ」


 双子の名前。

 彼女が考えた名前。

 

「どっちも男の子みたいで……お兄ちゃんは楓太……弟は楓斗(ふうと)……そう決めました」

「楓太と楓斗か……双子ってすぐにわかるな」

「そうでしょう?」


 楓太と楓斗。

 二人がどんな子に育つのか。まだ産まれてもいないのに、猛はそんな未来の話を想像していた。



今回もここまでお読みいただきありがとうございます!

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