知らなかった事。
短いです。
「真奈美さん、あの……」
「猛のこと?」
真奈美さんは俺が何かを訊く前に、察していたのか親父の名前を出してきた。
真奈美さんもかなり憔悴している。俺達の前では控えていたのか、灰皿に煙草の吸殻がいくつもあった。
「はい……親父の事、教えてくれませんか?」
「……お察しのとおりだよ。猛は、暴力団の一員だった」
覚悟はしていたけれど、それが事実だと告げられると心に来る衝撃は、想像していた以上だった。
けれど、それだけが聞きたかったわけじゃない。
「隠してたのは……」
「隠すに決まってるよ。むしろ知りたいと思ってた?」
それを言われてしまっては、返す言葉はなかった。
今でさえかなりのショックなんだ。直接聞いていればどうなっていたことか。
「猛は何よりも楓太くんの事を大切にしていたよ。自分の立場を隠しながら、工場で働いていると嘘をついて。でも理解してあげて、それが必要な嘘だったことを」
「……はい。でも、じゃあどうして……」
どうして親父は殺されたんだ。
それだけは、どんな理由があろうと納得は出来ないだろうが、知る必要がある。
そして犯人。考えられるとすれば、同じ暴力団の誰かか?
「楓太くんがここに来たとき……それ以来連絡が取れなかったのは、それから何かが起きていたからなのかもしれない」
「だとしたら、一年近く……なにかに巻き込まれていて、最後に……」
「そればかりは私達じゃわからない……警察に頼るしかないわね」
「そうですよね……」
それは分かっている事だった。
だけど、それで大人しくしていられるほど大人ではない。
どうにかして行動を起こして、犯人を見つけたい。
どうすればいいかなんてわからないけれど、俺の心はそれでいっぱいだった。
「……楓太くん、今日はもう休みなさい。私達に出来ることは、一刻も早く警察が犯人を見つけ出す事を、祈るだけ」
「……はい」
だけど。
この事件はそんなに簡単には解決しない。
そして思い知ることになる。
これがただの始まりで、さらなる抗争に巻き込まれることを。
今回もここまでお読みいただきありがとうございます!




