表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/15

7.リアムの憂鬱2

「いらっしゃい、リアム」


 ふんわりとした笑顔を向けられると、本当にほっとする。この笑顔に癒されたくて店に通う客がいるのも納得だ。


「コレット、今週の土曜日のこと考えてくれたか?」


「え? 」


 コレットはキョトンとした表情を浮かべている。


「ひどいな、忘れたのか?」


「……じゃあ、俺はこれで。コレット、また今度日を改めるよ」


 レミはリアムに向かって小さく会釈をすると、足早に店を出て行ってしまった。


「ありがとう。レミ、気を付けてね」


 小さくなっていく背中に、コレットがそう声を掛けたのを、リアムは聞き逃さなかった。


「"気を付けて"?」


「ええ、もうすぐ雨が降りそうなのに傘を持って来てないそうなの。私のを貸すって言ったんだけど、走って帰るから大丈夫だって……」


「随分と楽しそうにお話してたんだな」


 思わず棘のある言い方をしてしまった。コレットの反応を伺うと、案の定戸惑ったような表情をしている。


 こんな表情をさせたい訳ではないのに。


「そうだ、土曜日のことって……」


「ああ、町で映画を見たいと言っていただろう」


「ええ、でもそれって今度の土曜日だったかしら?」


 てっきり喜んでくれると思っていたのに、コレットは困惑したような顔をしている。リアムは土曜日は比較的コレットが忙しくないということも事前にし知った上で誘っているつもりだった。プライドの高いリアムは、ついムッとしたような口調になる。


「……不満なのか?」


「そうじゃないけど……」


「あの男と出掛ける方が良かったって言うのか?」


 コレットは相変わらず煮え切らない返事ばかりしている。


 ああ、また同じことの繰り返しだ。


 リアムが怒ったように聞いてしまうから、コレットはまた身構えて言葉を詰まらせてしまう。


 コレットの表情が曇ってしまう。


「……それは?」


 話題を変えようと、コレットが手に持っていた貝殻に視線を向けた。


「お土産に、って綺麗な貝殻を持ってきてくれたの」


 綺麗でしょう、とコレットはパッと顔を輝かせて、リアムに貝殻を差し出した。真っ白なその貝殻はすべすべとした手触りで、波によって形が削られてもいない。完璧な形を保っていた。


 なるほど、確かに綺麗だ。


「耳に当てると波の音がするのよ」


 言われた通り、貝殻を耳に当てた。微かに潮の香りがする。


「……これは自分の体の中の血が流れる音が響いてるだけだ。波の音でもなんでもない」


「貴方ってそんなにロマンの分からない方だったのね」


 コレットは呆れたように溜息を吐いて、貝殻をそっと飾り棚の真ん中に置いた。この飾り棚は彼女とアベラのお気に入りの物ばかりが飾られている。


「あの男は、君に気がある」


「まさか、そんなことないわ」


 コレットは冗談だと思っているようだった。大きく首を横に振って、ありえないと否定する。


 今度はリアムの方が深い溜息を吐いた。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ