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6.リアムの憂鬱

「まぁ、これを私に?」


 コレットは大きな目をさらに大きくさせて、少女のようなあどけなさでにっこりと微笑んでいた。


 リアムはパン屋の店の外から、そんなコレットの様子を隠れて盗み見ていた。


ーーどうして私が隠れなければいけないのか。


 店の外の大きな木の陰は、かろうじてベルを鳴らさずに中の会話を盗み聞くことが出来る。

 店に入ろうといた瞬間、コレットとレミが親しそうに話しているのを見つけてしまい、自然と身を隠してしまったのだ。

 堂々と入ればいいじゃないか、男らしくない。そう自らを奮い立たせてみても、その場から足が動かなかった。


「ああ、本当は上手い魚でも持って来れたら良かったんだけど」


 レミは照れ臭そうに俯いていた。

 背ばっかり高くてほっそりと頼りない。ふわふわとした髪は少年のようだし、顔立ちだって優しそうだが男らしくない。

レミの横を通って、中から若い女性が二人外に出てきた。リアムは慌ててその身を隠した。


「彼、いい男だったわね。見ない顔だけど」


「この前コレットに町に来たばかりだと言っていたのを聞いたわ」


「まあ、そうなの。彼もコレット目当てなのかしらね」


 二人は楽しそうに笑いながら、リアムのすぐ横を通り過ぎて行った。


 あんな男のどこがいいのだろう。


 レミはどうやら大きな貝殻を土産に持ってきたらしい。コレットは愛おしそうに貝殻を撫でた。


「とても綺麗ね」


「こうすると波の音が聞こえる」


 レミがその貝殻をコレットの耳に当てると、コレットの顔がパッと輝いた。


「本当だわ……素敵ね、ありがとう。大切に飾るわ」


 その嬉しそうな笑顔を見て、リアムの気持ちは複雑だった。コレットの幸せそうな笑顔を見るのは嬉しい。でも、彼女を幸せにするのはいつだって自分でありたい。


 自分はいつからこんなに心の狭い人間になってしまったのだろうか。


 誰にでも優しい君を好きになったのに、今では誰にでも同じように優しい君に腹が立ってしまう。


 大切に飾るわ、なんてあんな風に微笑まれて落ちない男なんていないだろう。


「あのさ、コレットもし良かったら今週末に良かったら食事でもどうかな?」


「今週末?」


 断るよな、断るだろう?


 よく知らない男だぞ、コレット。と、リアムは心の中で祈るように語り掛けていた。


 どうやらコレットはデートに誘われているらしい。当然断ると思っていたのに、なんだかとんとん拍子で進んでいくではないか。


「そうね、少し待ってね……あら、リアム」


 耐えきれずにドアを開けると、案の定ベルが鳴る。レミは心なしか気まずそうな表情を浮かべている。


 最近コレットはリアムを見つけると嬉しそうに手を振ってくれる。それは紛れもなくリアムへ向けられた"好意"の目で、それに仄暗い喜びを感じていた。


「やあ、コレット」


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