表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/15

2.手紙

「アベラ姉さん、二度目のパンが焼き上がったわ」


 ベイカー家は小さな町で代々続くパン屋だ。両親が作ったパンを姉と二人で売っている。昔馴染みの客も多く、店はそれなりに繁盛していた。


 アベラは計算が早く、新しいパンを考えるのも得意だ。

 コレットはおっちょこちょいだが優しい性格で、彼女と話をしたくて来る客も多い。


 コレットが話し相手になり、アベラが言葉巧みに新しいパンを客に勧める。ベイカー家のパン屋は今日も忙しかった。


「コレット、このパンにジャムは入れたかしら?」


 アベルは訝しげに焼き上がったパンを見た。


「ええ、もちろん……やだ、入れ忘れてたわ。ごめんなさい」


「そういうこともあるわ、気付いて良かった。それより、コレット大丈夫なの?」


「大丈夫よ、どうして?」


 慌ててパンにジャムを入れながら、アベルはコレットの顔を覗き込んだ。


「この間から少し変よ」


 この前、というのは決闘を見た日のことだ。


「貴方には少し刺激が強かったかしら……」


 私は結構楽しかったんだけどね、とアベルは何でもないようだ。


「怖かったけど、平気よ。そうじゃなくて私……、リアム様のファンになってしまったのよ」


「ああ、あんなことされたら好きになってしまうわ」


 アベラはレジ前に大切そうに飾られた一輪の薔薇を見て頷いた。


「どんな方なのかしら……またお会いしたいわ」


「ええ、本当に。家にパンでも買いに来ないかしら」


 アベラは祈るように胸の前で手を組んでいる。ベルが鳴って、店の扉がゆっくり開いた。


「コレット•ベイカー様にお手紙です」


 郵便屋の少年がにこやかに告げた。


「……私に?」


 差し出された手紙は、エンボス加工が施された上質な封筒に


「ええ、コレット•ベイカー様に」


 では、と小さくお辞儀をすると、若い郵便屋は颯爽と出て行った。


「少し裏で休憩してきたら?」


 アベラは気を利かせてコレットを休ませてくれた。


 店の裏に出ると、風に乗って潮の香りがする。コレットの家からは見えないが、すぐ近くに海岸があるからだ。

 空が青くて清々しい。どうせ誰も見ていないのだから、とコレットはその場で大きく伸びをした。


「随分と豪快なんだな」


 はっと振り返ると、身なりの良い青年が立っていた。美しいブロンドの髪を丁寧に撫で付けている。エメラルド色の瞳がコレットを見つめていた。


「……恥ずかしいところを見られてしまったわ」

 

「コレット•ベイカー、その手紙を読んでくれたかな?」


 青年はにこりともせずに言った。


「いいえ、まだよ。貴方が差出人の……」


「ああ、アトウッドだ。君に結婚を申し込みたい」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ