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15.雨が上がったら

「父ので良かったら着る? 少し大きいかもしれないけど」


 コレットが大きなシャツを持ってリアムに見せた。


「大丈夫、すぐ乾くさ。……それよりコレット、君の方が濡れてるじゃないか」


 コレットの髪を雨の雫が伝い落ちている。貸して、とタオルを手に取ると、リアムはコレットの髪を乱暴に拭いた。


「まったく……風邪を引いたらどうするんだ」


「また怒るのね」


「私は君が心配なんだ」


 無防備な顔を覗き込むと、ぐりぐりと大きな丸い瞳が揺らぐのが見えた。リアムは短く、唇を重ねた。コレットは一瞬驚いたように目を見開いて、すぐに照れたように笑った。


「私は本気だよ、コレット。さっき言ってただろう、揶揄っていたんじゃないかって」


 リアムはポツリポツリと話し始めた。


「初めて君を見たのは、実は決闘の日じゃないんだ」


 ふっと、思い出したようにリアムは笑った。


「仕事仲間から評判のパン屋があると聞いてね。そこに君がいた」


 やはりアベラの言う通り以前から店に通ってくれていたのだ。全く気付くことが出来なかった。


「こんな仕事だから、心が酷く荒んでしまう日もある。でも君の笑顔に癒されていた。誰にでも屈託なく笑い掛ける君は、天使のようだった。遠くから見てるだけで十分だったよ」


 確かめるように、コレットの頬を優しく撫でた。


「……あの決闘の日、君がいたことに気付いた。泣いている君を見て心が痛かったよ。君のような心の美しい人間が見るようなものじゃない。……薔薇を贈ったとき、君がハンカチを差し出してくれただろう。それで決めたんだ。これは神様がくれたチャンスだって」


 目を見て優しく微笑んだ。綺麗な深い緑色の瞳にコレットが映っている。


「君の笑顔を守りたい」


 リアムはそう言って、小さく溜息を吐いた。


「いつもそう思ってるのに、いざ君を目の前にすると上手い言葉も見つからない。怒ってるなんて言われる始末さ。本当に情けないよ」


「上手い言葉じゃなくてもいいわ。でもたまには優しくして」


「ああ、もちろんだ。君も何でも話してほしい、分かっただろう。私がどれほど、君を愛してるか」


 コレットの手にその手をそっと重ねると、左手の薬指に優しく唇を落とした。


「ええ、とっても」


 コレットは返事をするのもやっとだった。さっきとは違う、嬉しさからまた涙が溢れてしまった。


「……そうだ、君にカードを書いたんだ」


 リアムはポケットから小さなカードを取り出して、コレットにそっと差し出した。


「なかなか口に出して愛を囁けないから……今はこれで許して欲しい。どうか私が帰った後に読んでくれ」


 コレットはカードを受け取ると、流れるようにカードを開けて顔をくしゃくしゃにさせて笑った。


「ああ、もう! 私が帰ってからだと……」


「私も愛してるわ、リアム」


 そう言って、コレットはリアムの頬に優しくキスをした。

 窓の外の雨はいつの間にか止んでいる。雲の切れ間からは、二人を照らすように光が差し込んでいた。


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