狂愛2
「狂愛1」の別の人の視点の話。
愛って、怖い。
「お帰りなさい!」
今日も妻が笑いながら駆け寄ってくる。いつも家事を完璧にこなしてくれる妻。そんな人に冷たい視線を投げかけてしまうのは、どう考えても不倫している自分に何も言わない所であろうか。
私は妻を狂おしい程に愛している。妻も私を愛してくれているが、妻と私とでは大きさが違う。だから、不倫をしている。嫉妬に狂ってほしいのだ。私以外が目に入らないようにしたい。
きっと彼女が嫉妬の鬼と化しても、その姿は天女のように美しいのだろうと、常日頃妄想してしまう。
だが、結果はどうだ。彼女はいくら女の影を私に見ても、何も言ってこない。顔にすら出さない。そこまで私への愛は薄かったのか。私なんて最初からどうでも良かったのか。悲しみ、苦しみ、失望。渦巻いて渦巻いて、今日も眠れそうにない。
今夜も、彼女の憎いほどに安らかな寝顔を見つめていよう。
家にすら帰らず、ひたすらに彼女の崩壊を待ち望んでいたある日、階段から突き落とされた。ああ、人生などこのような物か。もういい、死んでしまおう。そう思って体を捻って空を仰ごうとしたら、彼女がいた。待ち望んでいた、執着と嫉妬の色を満面にたたえて。美しい手で私を突き落とす彼女。罪を罪と思っていない無垢なその人、その、だんだんと上がっていく口角を見て確信した。
ああ、成功だ。私の愛しい鳥は、地に落ちてきた。
ひどく頭を打ちつけたが、記憶は失わなかった。私の執念を舐めるなよ。ただ、記憶喪失のフリをした。態度を急変させるのにはあまりにも冷たい態度をとっていたためだ。あんな態度など、彼女には本当はとりたくなど無いのだ。此方に彼女が来てくれたのだ。私は前の分も含めてより慈しみ、より愛そう。
私が使っていた女がやって来た。私の可愛い奥さんはソイツを葬ったようだ。ああ、見ていたよ。血に塗れる君も美しい。惚れ直してしまうではないか!
この事件を通して分かった。彼女は私を愛していた。そして愛に狂ってくれた。
ああ、愛しい君よ。二人で狂愛に身を堕とそうではないか?
胸に飛び込んで来た彼女を受け止め、私は口角を愉悦に歪めた。