第5話 勇者ヒカル。
「ぎゃああっ! 喰われる! 助けっ! うぎいぃっ!」
早朝の王都サージナルに響き渡る、断末魔の悲鳴。平穏な城下町に突如出現した、一つ目巨人サイクロプス。手近な人間を手掴みにし、ボリボリ、クチャクチャと頭から丸かじりにしていく。
「あれがサイクロプス!? ひぃぃっ! 怖いよう!」
国王の要請を受け、サイクロプス討伐に参上したのは勇者ヒカルだ。黒髪のショートヘアに大きな目。小動物のような「ふにゅんっ」とした口に小柄な体格。ほとんど美少女のような可愛い少年である。
彼は異世界「地球」から勝手に召喚され、ほぼ強制的に毎日戦わされている。
「恐れるなヒカル。いつものようにやればいい。お前なら出来る。自信を持て」
悟ったように語るのは、賢者アンニュイ。ヒカルのお目付役の好色なおっさんである。
「わかりましたよ、やりますよ!」
ヒカルは両手を胸の前で合わせ、祈るようにひざまずく。
「全ての清く正しき者の母、女神ルクス様。邪悪と戦う力を、私にお与え下さい。我が身に宿り、敵を滅ぼし下さい。アレル・ルクス!」
祈りが終わると、ヒカルの体が光輝く。そしてその姿は、絵画や彫刻で広く伝えられる、女神ルクスの姿へと変貌を遂げる。ヒカルは元々、女神ルクスにそっくりな容姿をしていた。
黒かった髪は真っ白になり、顔はそのままに、女性らしいプロポーションへと変化する。特に胸の膨らみは顕著で、着ている服がはち切れそうなほど、たわわにみのる。
「ウヒョー! いつ見てもたまらんボディだ!」
女体化したヒカルにすかさず抱きつく賢者アンニュイ。
「やめてください! 全くもう!」
ヒカルはアンニュイを背負い投げで投げ飛ばし、その場で跳躍する。
その跳躍は人間離れしていた。ほとんど流星のようにサイクロプスの頭上に飛んだヒカルは、右拳を腰まで引き、落下しながら怪物の頭上に打ち込んだ。
「ゴッデス・ハイパーブロウ!」
ヒカルの拳が眩しく輝く。
「うぎょぉぉぉーっ!」
サイクロプスの頭蓋骨は陥没。一個しか無い目玉が飛び出し、鼻血を吹き出す。そのまま崩れるように、前のめりに倒れるサイクロプス。
家や商店がその巨体に押し潰されるが、住人はすでに避難済みだ。サイクロプスの死体はあっという間に腐敗し、おぞましい悪臭を周囲に撒き散らした。
その腐った死体の上に立ち、血塗れのヒカルはガッツポーズを取る。
「良くやったヒカル。帰ってシャワーを浴びるぞ」
背負い投げで投げ飛ばされたアンニュイは額から流血していたが、なんでも無いようにそう言った。
城に帰ったヒカルはアンニュイのセクハラを受けつつシャワーを浴び、さっぱりした後でまたも国王に呼び出される。
「タッセルの街に吸精王が出現した。街の住民の精を吸い尽くし、奴隷として支配下に置いているらしい。今すぐ討伐に向かってくれ」
「ええ〜。ちょっとは休ませてくださいよ、もう」
国王のむちゃぶりにウンザリしながらも、正義感の強いヒカルは渋々承諾し、アンニュイと共にタッセルの街へと急ぐのだった。