第19話【最終話】聖女の力。
「着きました。ここが聖ルクス教会です」
ヒカルが教会の扉を開ける。すると漂ってくる、血の匂い。
「こ、これは......!」
ヒカルが動揺する。教会内で起こっているだろう惨劇は、見なくても想像が出来た。
「ヒカル、下がれ。そしてシュリを守ってくれ」
「はい!」
ヒカルは俺の指示に従い後退。シュリを庇うように立つ。
俺は慎重に教会内に入った。床にはおびただしい量の血液。そして、バラバラに切り刻まれた死体が散乱している。
中央ドームへと続くアーケード内は、列柱の上部にまで血液がこびりついており、殺戮の凄まじさを物語っている。
むせ返るような血の匂いを堪えながら、俺は歩いた。やがて中央に到着すると、祭壇に一人の人物が立っているのが見えた。一見すると、教会の司祭に見える。年齢は五十歳前後。だが、おそらく違うのだろう。本人は既に殺害され、その姿を模倣されているに過ぎない。
「君は吸精王レスカだね。勇者ヒカルと、聖女シュリは連れて来なかった訳か」
男は静かにそう言った。
「シュリが、聖女だと?」
にわかに信じられず、俺は聞き返した。
「ああ、そうとも。彼女の抱えている包みの中身、なんだかわかるかい?」
「いや......」
「あれはね、彼女の妹と両親さ。その切れ端だよ。僕がね、切り刻んであげたんだ。と言ってもわざとじゃないよ。聖女だけを殺そうとしたんだけど、まず妹が彼女の盾となった。その後両親が彼女を守り、死んでいったと言うわけさ。泣かせる話だろう?」
さも楽しそうに、まるでジョークを話すように、男は笑って見せた。
「この、下衆が......!」
俺は男の隙をうかがった。とてつもなくムカつくゲス野郎だが、一切隙が見えない。うかつに手を出せば、返り討ちにさせるかも知れない。
「聖女は不死身なんだよ。彼らは無駄死にって訳さ。僕が封殺してあげない限り、彼女の力を抑える事は出来ない。死者すら蘇らせる、聖女の力。僕たちデビルにとっては邪魔以外の何ものでもない。さぁ、封殺してあげよう、聖女!」
男は俺の後方に向かって、手を掲げる。膨大な量の魔力が放たれ、周囲のものを切り裂きながら突風を巻き起こす。教会の入り口付近の壁も破壊され、大きな風穴が開く。あの場所は、ヒカルとシュリがいた場所!
「シュリ!」
反応出来なかった。俺は急いで教会の出口へ向かう。すると風穴の開いた場所から、ヒカルともう一人、美しくセクシーな女性がひょっこりと現れた。
「ヒカル! シュリは!? その女性は誰だ!?」
俺が尋ねると、女性がニッコリと微笑む。彼女の服装は、教会のシスターなどが身にまとう修道服。だがピッチリとしたデザインで、女性らしい曲線が、くっきりと浮き出ている。
「私です、レスカ様。シュリです。あっ、あぶない!」
女性はそう言って、前方に手をかざす。俺は危険察して振り返る。さっきの突風と同様のものが、周囲を切り刻みながら迫っていた。だが、衝撃は訪れない。光輝く半透明な壁に、阻まれたようだ。
「大丈夫です。私の聖なる障壁が、皆さんを守ります」
シスターっぽい女性が前に出る。
「本当にシュリ、なの?」
思わず聞く。すると女性は振り返り、微笑を浮かべた。
「はい。そうみたいです。先程、外で待っている時に急に姿が変わって......。頭の中にルクス様の声が響きました。私が、聖女なのだと。妹と両親も、私の力で生き返りました。今は安全な場所に避難しています」
「驚いた......凄い成長ぶりね」
「ええ。僕も驚きました」
ヒカルも同意する。
「今の私なら、お力になれます。三人で、戦いましょう」
シュリは自信に満ちた表情で、男に向かって歩き出す。
「そうね。あなたがいれば、心強いわ」
「ええ! 戦いましょう、僕たち三人で!」
俺たちは三人で、教会の中心へと走る。
「女神の使徒が勢揃いと言う訳ですか。面白い。まとめて始末して差し上げましょう!」
「はぁぁーっ! エナジードレイン・バースト!」
「ゴッデス・ハイパーブロウ!」
「ホーリー・ライトニング!」
熾烈な戦いが始まった。だが、この戦いはほんの始まりに過ぎない。魔王率いるデビルとデーモンの群勢。奴はその末端に過ぎないのだ。
だが、勝ってみせる。そしてヒカルとシュリ、二人とイチャイチャしまくるんだ! そんな欲望を胸に、俺は決め台詞を放つ。
「魔王だろうが誰だろうが、てめぇら全員ミイラにしてやんよ!」
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