第18話 裁きの時間。
「依頼と言ったな。お前ら冒険者か?」
俺の質問に、正面の男は顔をしかめる。
「ああ、そうだ。だったらどうした」
悪びれずに言う男。俺のこめかみにピキッと血管が浮き出る。
「この子を欲しいと言う依頼人の目的は知っているのか? 引き渡した後、この子が殺されてしまう可能性を考えたか?」
怒りに声が震える。だが男は、それを気に留める様子は無い。
「知るか。その後の事なんてどうでもいいぜ。金さえもらえれば問題はねぇ。子供を連れて依頼人に引き渡す。なんの罪にもならねぇだろ?」
ピキピキピキ。俺の心に、更なる憎悪と怒りがほとばしる。
「そうか......確かに罪にはならねぇ。騙され、脅された者の証言や、それを証明するものが無ければな」
「へっ。テメェがそれを証明するってのか。やめとけやめとけ。この人数相手に勝てる訳ねぇだろ。おいリーマ、こいつらのステータス調べろ」
「はいよ」
横から女の声がする。それから短い呪文の詠唱。女は杖を振り、俺たちをジッと見た。
「この二人も冒険者だね。ターゲットを抱いている男は村人でレベル5。もう一人の可愛い男は武道家でレベル1。二人ともDランクさ」
周囲からドッと笑いが巻き起こる。正面に立つ男も腹を抱えて爆笑し、涙を流しながら俺たちを指差した。
「おいおいおいおい! 身の程知らずも良いところだぜ! 言っておくが俺はAランク! 他の連中も全員Bランクだ。お前らには万に一つも勝ち目はねぇぞ、Dランクのゴミ共! それにな、この路地は滅多に人が遠らねぇ上に、出入り口には見張りも付けてる。いくら待っても憲兵はこねぇぜ。死にたくなかったら、大人しくそいつを渡しな」
正面の男は両手を差し出しながら、こちらに近づいて来る。シュリはその男を見て、それから俺の顔を見る。
「あの、お兄さん。私なら平気です。私、勇者様を探してこの町に来たんです。両親が、この町に勇者様がいるって言ってたので。さっきのおじさん達、勇者様に合わせてくれるって言ってました。この人達も、その仲間なんですよね? なら、ついて行きます」
そう言って微笑むシュリ。だが賢い彼女はもうわかっている筈だ。この大人達が嘘をついている事を。
「シュリ。お前は俺が誰だかわからないかも知れないが、俺はお前を良く知っている。妹のユマの事もな」
「えっ?」
キョトンとするシュリをそっと下ろし、立たせる。
「あの人達はな、嘘つきなんだ。そして俺は、本当の事を言っている。どっちが信用出来る存在なのか、今から証明してやるよ。アマヤ!」
「はい!」
アマヤは俺の意図を察してくれた。即座に片膝を地面につき、祈りを捧げる。
「全ての清く正しき者の母、女神ルクス様。邪悪と戦う力を、私にお与え下さい。我が身に宿り、敵を滅ぼし下さい。アレル・ルクス!」
彼女の全身が光輝く。髪の色が黒から白へ。瞳の色も黒から金色へ。そしてその肉体は、プロポーション抜群の女体へと変化する。
さらに冒険者証の力により、服装や装備も勇者のものに変更。今ここに、勇者ヒカルが顕現した。
「女神ルクス様にそっくり......! 勇者様!?」
シュリが感激したように、口を両手で覆う。
「ば、馬鹿な! 何故勇者が......!」
うろたえる冒険者達。俺はそこへ追い討ちをかける。
「お前ら、覚悟は出来てんだろうな。人の命を奪おうってんなら、自分が奪われる覚悟も当然してるんだよな!」
怒りを言葉にして吐き出す。そして眉間に意識を集中。そこから一気に、全身に快感が駆け巡る。
「はぁああーっ♡」
俺の肉体も一気にグラマラスボディに変化し、髪は茶色から金色へ変わり長く伸びる。目も茶から赤へ。そして服装も村人服から、サキュバスのセクシーなバトルドレスへと変化。ここに吸精王レスカが顕現する。
「おおおっ!」
ざわつく冒険者達。吸精王のパッシブスキル【魅了】が発動し、彼らを一瞬で虜にする。
「レスカ様! お兄さんは、レスカ様だったんですね! 会いたかったです!」
涙を流すシュリ。きっと辛い目に遭ったのだろう。
「私も会いたかったわ、シュリ。少し待っててね。あの嘘つきさん達を、ミイラに変えちゃうから」
俺は女っぽい喋り方を意識しながら、シュリの髪を撫でた。彼女は俺の雑な口調を知らない。なるべくイメージを壊さない方が良いだろう。ヒカルが目を丸くしているが、今は無視だ。
「お待たせ♡ みんなまとめて吸っちゃうよぉ♡ エナジードレイン・ピンクトルネード!」
俺の目の前に、桃色の竜巻が出現。冒険者達の精気を巻き込むように吸収していく。
「うはぁーっ!」
「んぴぃぃぃぃーっ」
「んふぉぉー!」
男も女も即時絶頂。そしてあっという間にミイラへと変わり、ドサドサと倒れていく。
「命だけは助けてあげる。ここで反省してなさい。親切な僧侶でも通りかかれば、元に戻れるかもね。ふふっ......ほら、おいでシュリ。悪い人達はやっつけたわ」
俺が両手を広げると、シュリは目を輝かせて飛び込んで来た。
「怖かったね。もう、大丈夫だよ」
「レスカ様! ええーん」
「よしよし」
俺はシュリを抱きしめ、髪を撫でた。ヒカルがちょっぴり不満そうに、だが少し面白そうに口元を歪める。
「僕の出番、無かったですね」
「ああ......ふふっ。そうね」
俺もクスッと笑う。そしてシュリが落ち着くのを待って、教会へと向かった。




