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第17話 村人の底力。

 現在俺たちの戦闘力は、とてつもなく低い。よって今の目的は、シュリを救出して全力で逃げる。これに尽きる。


「吸精王」も「勇者」も、変身しなければスキルは使えないし常在能力(パッシブスキル)も発動しない。


 今は「村人」と「武道家」のスキルで乗り切るしかないのだ。


 まず人攫い同士の距離を離そうと思う。手前の男をさらに挑発し、シュリを捕まえている男をアマヤに対処してもらう。俺はそう計画していた。今は「念話」が使えないが、察しのいいアマヤなら気付いてくれる筈だ。


 俺は手前の男を睨みつつ、距離を取る振りをして後退した。そして素早くしゃがみ込み、石を拾って投げつける。


「いてっ! この野郎!」


 手前の男は目をギラつかせ、俺に掴みかかって来た。本来、人々の生活圏内である村や町での戦闘は禁止されており、規律を守る兵士「憲兵」に見つかれば捕縛の対象となる。さらに、武器や魔法を使っていた場合罪が重くなる。彼が武器を使わないのはその為だ。


 ちなみにSランク冒険者などは一騎当千の力を持つ為、生半可な強さでは捕縛出来ない。だが憲兵達は「無力化拳銃」と言う魔法の武器を所持しており、その弾丸は魔法であろうとスキルであろうと「人間」が扱うものは全て無力化する。その為、人々が喧嘩や戦闘を行う事は滅多に無い。


 なので俺も短剣を持ってはいるが、使わない事にする。くるりときびすを返してダッシュ。つまり逃走を図る。


 逃げながらアマヤを見る。彼はうなずき、シュリを捕らえている男へと向かっていった。いいぞ、流石だ。


「待てコラ!」


 よし、手前の男が追って来た。シュリの事はアマヤに任せ、俺は追ってくる男の対処だ。逃げながら周囲の状況を見る。ここは宿屋や商店が連なる中央通り。程々の往来があり、反撃をすると人目につきそうである。


 おっ、ちょうどいい路地がある。あそこに飛び込もう。


「待ちやがれ!」


 雑踏のせいで距離を詰められた。だがそう簡単に捕まる訳にはいかない。人攫いが伸ばしてくる手をひょいひょいと避け、俺は右側に見える路地へと飛び込んだ。そして振り向きざまに、男の腹に拳を叩き込む。


「ぐぇっ」


 カウンター気味に入り、男はつんのめった。その隙に俺は奴の脇を擦り抜け、シュリがいた場所へと猛然とダッシュ。逃げ足には自身がある。


 息が切れる。脇腹が痛い。だがそんな痛みに構っている暇はない。


 見えた! アマヤと男が戦っている。シュリは少し離れた場所でオロオロと、戦う二人の様子を見ている。どうやらアマヤが優勢のようだ。


「ホォアタァ!」


 アマヤは奇声を発して人攫いの顔面に裏拳を叩き込む。のけぞって鼻血を吹き出す男。トドメを刺すなら今がチャンスだ!


 俺は走りながら、右拳を引いて力を込める。村人専用の攻撃スキル。レベルの低い俺には一日一回が限度だが、今使わずしていつ使う!


 鼻っ面を抑えて悶える男に、走って近づく。射程距離に入った! 今だ!


「村人ナックル!」


 俺は力を込めた右拳を、男の腹に叩き込む。男は「ぐへぇっ!」と呻き声を漏らし、ゲロを吐いた。そしてそのまま、前のめりに倒れる。よし。これでしばらくは、動けないだろう。


「シュリ、おいで!」


 俺は両手を広げてシュリを呼んだ。彼女は戸惑いながらも、俺の胸に飛び込んで来る。


「いい子だ! お兄ちゃんが守ってあげる! 一緒に行こう!」


 シュリが頷くのを確認すると、俺は彼女を横抱きにして持ち上げた。王子が姫を抱き上げるように。


「走るぞ!」


 もう一人の男が、きっともうすぐ追いついて来る。その前にどこかに隠れなくてはならない。俺はアマヤを促し、全速力で走った。


「どこに行きますか!?」


 アマヤが叫ぶ。


「わからん! どっか安全そうな場所に案内してくれ!」


 俺も叫んだ。サージナルの城下町は、アマヤの方が詳しい筈だ。


「わかりました! ついて来て下さい!」


 アマヤが先導する様に先を走る。俺はガムシャラに彼を追いかけた。比較的広い路地に入り、ウネウネと曲がりくねったその道を走る。両側の壁は高く、人影はまばらだ。だが路地に入ってからずっと、妙な視線を感じていた。


「この先に、聖ルクス教会が......!」


 アマヤがそう言いかけた時、周囲にたむろしていた人々が一斉に俺たちを取り囲んだ。


「そこまでだ! そのガキをこっちに渡せ!」


 正面に立つ男が叫ぶ。彼は長髪のボサボサ髪。顔や体に沢山の傷があり、筋骨隆々だった。


 周囲を見回す。全員腕に覚えのありそうな男女だ。装備こそ身につけていないが、おそらく冒険者だろう。ざっと十人以上は居る。


「この子をどうする気だ!」


 俺はシュリを強く抱きしめ、正面の男に叫んだ。シュリは布に包まれた荷物を、大切そうに抱きしめる。


「依頼主に引き渡すだけだ! その後の事は知らねぇ! 怪我したくなきゃさっさと渡しな!」


 正面の男が冒険者証の力で、装備品を身にまとう。そして両手持ちの大剣を構え、こちらを睨む。他の連中も同様に、装備を身にまとった。杖や弓矢を構えている者もいる。つまり立ち位置に関係なく、魔法や弓矢で殺されてしまう可能性がある。


「レモンさん......!」


 アマヤが緊張した面持ちになる。シュリもキュッと身を縮こませる。


 クソ冒険者共が......! 怖がらせるんじゃねぇよ。小さい子をよぉ! 俺の中に、激しい怒りが巻き起こる。ここは人目につかない場所......ならば、こいつらを懲らしめても問題は無いだろう。覚悟しろ、クズ共......!


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