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第16話 冒険者ギルドと人攫い。

ブックマーク、評価、感想下さった方、ありがとうございます!

「大好きです、 レモンさん!」


「俺もだ、ヒカル!」


 もう何度目かわからない。俺とヒカルは同時に果て、ベッドの上でぐったりとする。


「レモンさん......」


「ヒカル......」


 美少女となったヒカルの白い髪を撫でながら、俺は童貞を卒業した喜びを噛み締めていた。処女も童貞もヒカルに捧げた。俺は一生、この娘を愛するぜ。


 宿屋の一室。俺たちは冒険者ギルドに行く予定だったが、俺のカミングアウトをきっかけに、セックスにふけってしまった。


 部屋に置いてある「魔法式壁掛け時計」がポーンと鳴り、正午を告げる。


「もうお昼ですね、レモンさん。そろそろ行きますか?」


「そうだな。あと一回、シテからな」 


「クスッ。しょうがないなぁ、もう」


 俺はひとしきりヒカルを抱き、彼女と一緒に備え付けのシャワーを浴びた。


「さて、今度こそ行こうか。だがギルドの前に腹ごしらえだ」


「はい!僕もお腹が空きました」


 ヒカルは女の姿だと「勇者だ!」などと騒がれかねないので、名残り惜しいが男に戻って貰う。


 宿屋の食堂で簡単な食事を済ませ、冒険者ギルドへ出発。冒険者ってのは「迷宮冒険者」の略で、迷宮のお宝の探索やモンスターの討伐による肉や皮の調達、珍しい植物や鉱石の採集などで生計を立てる仕事だ。


 冒険者ギルドは、その冒険者の組合。迷宮探索関係の依頼を請け負ったり、冒険者に仕事を斡旋したりする。


 冒険者ギルドに到着。ここは、この王都においてもかなり大きい建築物で、町の中心である王城のすぐ側に位置している。中には受付のカウンターに女性がズラっと横並びにおり、依頼が書かれた用紙の貼られた掲示板や、酒場もある。ギルド内は基本的にいつも混み合っており、今日も大盛況だ。


 ちなみにヒカルのクラスは「武道家」にした。なぜなら彼の戦闘スタイルは武術。変身していなくても、それなりに戦えるらしい。


「僕のフルネームは、ヒカル・アマヤと言います。なので、アマヤで登録しますね」


 ヒカルの冒険者登録はスムーズに進んだ。資格(クラス)は魂に刻まれる為、本来は偽れない。だが吸精王のスキルは精神や魂そのものに関与出来る為、「変身前は武道家」という偽りの情報を魂に刻む事が出来た。服装も勇者のものから、武道家っぽい簡素な服装に着替えてある。


「最初はDランクからスタートだ。自身のレベルアップや、依頼をこなしてギルドの信頼を得る事でランクは上がっていく。最高はSランクだ。まぁそう言う俺は、最低のDランクなんだけどな」


 俺はヒカル......いや、男の時はアマヤと呼ぼうか。アマヤにギルドの説明をした。


「なるほど、よくわかりました。依頼をこなしつつ、レベル上げをするんですね。じゃあ早速、依頼を見てみますか?」


「そうだな......まぁぶっちゃけDランクの俺たちが受けられる依頼は限られている。迷宮の植物や鉱石の採集依頼をこなしつつ、モンスターを討伐してレベルを上げよう」


「わかりました!」


 ちなみにレベルの概念は、例外を除けば冒険者にしか存在しない。モンスターが死んだ時に体から出る不思議な光。それに触れると、人間は徐々に潜在能力を引き出し、強くなっていく事が可能なのだ。


 冒険者の間ではそれを「経験値」と呼んでいた。村を守る騎士や、城を守る兵士は基本モンスターと戦わない為、レベルアップする事はない。つまりモンスター退治は、冒険者の専門と言ってもいいくらいだ。


 例外として、勇者を含む「女神の使徒」は最初からモンスターと戦える強さを持っている為、冒険者になっていなくてもモンスターと戦う事が出来るし、レベルも上がる。


 アマヤは異世界人の為、その事を知らない。そう言った補足説明もしつつ、俺たちは受付を離れて掲示板へと向かう。依頼の張り紙は無数にあったが、Dランクでも受けられる仕事は少ない。その中から、良さそうなのを探してみる。


「うん、これなんかいいんじゃないか。魔石の原料になる魔原石の採集。迷宮の比較的浅い階層でもゲット出来る。レベルはとりあえず10を目指そう」


「了解です」


 魔石ってのは、魔法道具を動かすのに必要な魔力を蓄える石だ。魔石は、鉱石である魔原石に魔力を注入する事で作成出来る。


 レベルに関しては、俺のレベルは5。アマヤは1だ。どうやら変身状態と通常状態では経験値が別枠で溜まるらしく、男の俺たちはどちらも弱い。


 今は浅い階層で弱いモンスターを倒して、経験値を稼ぐべきだろう。変身すれば下層まで行けるが、他の冒険者に注目されて正体がバレるのはまずい。依頼の貼られた紙を掲示板から剥がし、受付に向かう。受付は行列がいくつも出来ている為、その一つに並んでしばらく待つ。


 行列はサクサク処理されていく。受付が有能なのだろう。


「次の方どうぞ」


 よし、俺たちの番だ。受付は、眼鏡をかけた生真面目そうな女性だ。長い髪を後ろで束ねている。年齢は二十代後半って所か。


「依頼をうけたい。俺と、このアマヤで新たにパーティーを組む。以前はタッセルの町を拠点にしていた。よろしく頼む」


「はいはい、ではまず冒険者証を出してください。そっちの人も」


 俺とアマヤは言われた通りに冒険者証を出す。これは魔法道具で、登録された名前、年齢、レベル、現在の経験値などが魔法で浮き出る。


 また、装備品に限り異空間に収納する機能を持っており、これを利用する事で、瞬時に装備品の入れ替えが可能。着替えも一瞬で出来る。


「はい、パーティー登録終わりました。その手に持ってるの依頼書でしょ? 出して」


「ああ」


 差し出された女性の右手に依頼書を渡す。女性は素早くペンで記入し、バッと俺に返してよこした。


「ここにサインを」


 言われた通りにサイン。


「はいオッケー。こっちがあなた達の控えね。そこにも書いてあるけど、依頼の期限は三日。それまでに品物を納めて。はい、次の方どうぞ!」


 なかば締め出されるように、受付カウンターを離れる。ぶっきらぼうだが、やはり手際がいい。タッセルの冒険者ギルドは、なんだかのんびりしていた。


 ふと、幼馴染み二人の顔が浮かぶ。そろそろ、許してやる頃合いかな......。怒りも冷め、楽しい思い出だけが蘇って来る。


 ミイラ化した二人はタッセルの宿屋に預けてある。この依頼が終わったら、一度戻ってみるのも良いかも知れない。


「手続きも無事終わった事だし、早速迷宮に向かおう。迷宮へは乗合馬車の定期便が出る。それに乗っていくぞ」


「そうなんですか!? へぇ、まるで観光地みたいですね」


「まぁな。モンスターが迷宮の外へ出てくるのは夜だけだ。周辺地域が襲われる事は滅多にないし、馬車でも安全だ。まぁ、たまに例外もあるみたいだがな。金があれば馬を買って乗っていけるが......あいにく今は持ち合わせが無い」


「ああ、いえ、別に乗合馬車でも全然構いません。むしろワクワクしちゃいます!」


「ははっ、そうか? よし、じゃあ馬車の停留所に行こう」


 停留所に向かう途中、妙な連中とすれ違う。中年の男が二人と、幼い少女が一人。少女は布に包まれた大きな荷物を抱えている。家族のような雰囲気は無い。ただただ違和感を感じる。


 ん!? いや待て! あの少女は!


「シュリ!」


 俺は振り返り、少女の名を呼んだ。彼女はピタリと足を止め、振り返った。そして沈んだ暗い目で、俺を見つめる。やっぱり間違いない。彼女はタッセルの町で花屋を営んでいるヨーセン夫妻の娘、シュリだ! 妹と一緒にゴールディの館へやって来て、花束をくれた少女。だが、なんだか様子がおかしい。


「レモンさんの知り合いですか?」


「ああ、そうだ」


 俺はアマヤを伴ってシュリに駆け寄る。だが、連れ添っていた二人の男が、俺たちを阻む。


「あんたら誰だ? こいつはシュリなんて名前じゃないぜ。失せな」


 男の一人がそう言った。その時、少女が「ヒッ」と小さく悲鳴を上げるのを、俺は聞き逃さなかった。もう一人の男が、彼女の首に短剣を当てている。実際には俺からは死角になっていて短剣は見えない。だが男の動作と少女の反応から、そう推理した。


「人攫いか? 騒がれると面倒だってんで、最近は騙して連れて行く手口が増えているらしいが」


「ああ!? んだテメェ! 痛い目にあいてぇのか!」


「痛い目か。面白い、やってみろ」


 どうやら図星だったようだ。俺は男を挑発しつつ、油断なく身構えた。奴らにとってシュリは商品。おそらく傷つける事はない筈だ。


 戦闘の気配を察し、アマヤも武術の構えをとる。


 Dランクの村人と武道家VS人攫い。戦闘開始!


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