第13話 精神世界。
「精神侵入!」
正気を失ったヒカル。俺は彼女の唇を奪い、精神世界へと侵入するスキルを使用した。
視界が切り替わり、見たことのない景色へと変わる。見上げる程に高い建築物が並び、道は灰色。馬車ではない乗り物が、凄まじい速度で往来する。
周囲は人で溢れ、肩をぶつけて足早に過ぎ去っていく。彼らが着ている服は、どれも初めて見るデザインだ。
それに空気が悪い。思わず咳き込む。
これはヒカルの精神世界。彼女の記憶の中。つまりこれは、彼女の生まれ故郷なんだ。確か彼女は、異世界から召喚された筈。こんな世界が、何処かに存在するのか。
「ヒカル、何処だ!」
俺は叫んだ。
「離せぇっ!」
ヒカルの声だ! 俺は雑踏を掻き分け、声のする方へ走った。
くそっ、人が多い。中々前に進めない。
「テメェら退け!」
俺は雑踏を構成している人間達を、片っ端から蹴り飛ばした。波しぶきを上げながら進む船のように、俺は人々を舞い上げながら進んでいく。
「うぎゃああーっ!」
響き渡る人々の悲鳴。罪を裁く存在「女神の使徒」である俺は、人を殺しても罪にはならない。だが当然、無差別殺人をするつもりはない。
これはあくまでもヒカルの精神世界であり、この人々はこの場に現存しない。だからいくらブッ殺しても、問題ないのだ!
「オラオラオラァー!」
「きゃああーっ」
返り血を浴びながら突き進む。見えた! ヒカルだ!
ヘソと下乳が露出したヒラヒラした上衣に、極小紐パンが丸見えの、超ミニスカート。そんな服装の爆乳ショートヘア美少女に、無数の触手が絡みついている。
「やめろぉーっ!」
叫ぶヒカル。彼女を触手で捕縛しているのは、おぞましく禍々しい姿をした怪物。例えるならば、巨大なタコのようだ。
そしてこの強大な邪気は、やはり間違いない。デーモンの上位種、デビルだ。
「ヒカルを離しやがれ!」
「くくくっ! ここまでくるとは見上げた奴だ! だが勇者は渡さぬぞ! 此奴がおれば、虐殺でさえ罪にはならぬ! この世界を手中に収める事が出来る!」
デビルは右手に魔力を集め、地面に炸裂させた。次の瞬間、奴を中心に巨大な爆発が巻き起こる。
「くははっ! 死ねぇー!」
周囲の建物は粉々に崩壊し、吹き飛んでいく。人も町も全てが消え去り、この場に存在するのはデビルとヒカル、そして俺だけとなった。
「ば、馬鹿な! 何故滅びない!」
怯むデビル。俺は悠然と歩み寄り、ヒカルを捕縛している触手をブチブチと引きちぎった。
「ぎぃやぁぁー! 馬鹿な馬鹿な! 下等な人間如きに、ワシの肉体を破壊する事など......!」
ぐったりとうなだれたヒカルを抱きとめ、俺はデビルの目玉を素手でえぐり取る。
「俺は人間じゃない。吸精王だ」
「ぐひぃーっ! やめでぇ!」
後退りするデビル。まだ破壊されず残っている触手が、狂ったように俺に襲いかかってくる。
だが俺は人差し指先の先端、鋭く伸びた爪でそれらを一閃。バラバラと切断され、触手は地面に落ちる。
「ひぃ、ひぃぃっ、馬鹿な! 神にも匹敵する力を持つ、このクトゥルーが! 貴様如きに!」
「残念だったな。俺は超美人でスタイルも最高なだけじゃない。不死身で最強で残忍。つまり無敵だ」
クトゥルーを指差し、ポーズを決める。ついでにちょっとだけ本気のオーラを放出。どんな怪物もビビる神々しくも凶悪なオーラだ。
「ひぃぃーっ! あなた様は、まだそれ程のお力をお持ちなのですね! お、お許しを! 改心します! もう二度と悪さはしません!」
クトゥルーは震えながら土下座した。
「少しはプライドねぇのかテメェ。俺の可愛いヒカルをブチ犯しといて、許す訳ねぇだろこのタコ!」
俺はクトゥルーの頭を踏み、それから奴の横に移動して腹を蹴り上げた。舞い上がるクトゥルー。
「うぐぇーっ!」
そして落下してきた奴の頭をキャッチ。さぁ、皆さんご唱和下さい!
「エナジードレイン!」
「んぎょぉぉー!」
もちろん精気全部吸いの、ミイラに変える。
「オラァ!」
ミイラを蹴りで粉々に粉砕し、ヒカルを抱き寄せる。
「もう大丈夫だぜ、ヒカル」
「レスカさん......」
俺はヒカルと口づけをかわし、それから精神世界を離脱したのだった。




