第12話 狂乱の勇者。
第一話の前書きに表紙絵つけたから見てね。イメージ壊れるかも、と思った方は見ないのが吉かもです(*'▽'*)
「シモンの奴、遅いな」
俺が牢に捕らえられてから、五時間程が経過していた。シモンが偵察に行ってからは、三十分程だ。
俺は牢の番をしている二人の兵士、アルベルトとフィールに身の回りの世話をさせていた。お陰でかなり快適に過ごせている。
「多分、どこかでつまみ食いでもしてるんじゃないですか?」
アルベルトがニヤリと笑う。
「そうそう。あいつ、食い意地張ってますからね」
フィールも同意を示し、アルベルトと顔を合わせて笑った。
だが俺は胸騒ぎがした。もしかして、何か事件に巻き込まれてしまったのかも知れない。もう少し、シモンに警告を与えるべきだった。
そう思いを巡らせた刹那。ズドォーン! という衝撃音と共に牢獄の鉄扉がこちら側にへこみ、次の瞬間には留め具を撒き散らして吹っ飛んできた。
「あぶねぇ!」
俺はアルベルトとフィールを突き飛ばし、鉄扉を蹴り止める。
扉があった場所にはポッカリと穴が開き、そこにゆらりと女が立つ。
「居たな、吸精王!」
「ヒカル、か!?」
その女はヒカルだった。だが明らかに様子がおかしい。そしてその全身は、返り血で真っ赤に染まっていた。
「おい! 何があった!」
「くくくっ! 死ねぇ!」
ヒカルはその輝く剛拳を容赦なく繰り出してくる。俺はそれを捌きつつ、アルベルトとフィールを見る。二人は腰を抜かしていた。
「お前ら逃げろ! こいつは正気じゃない! 俺でも守り切れるか分からん! 逃げないと殺されるぞ!」
「ひぃぃっ!」
「わ、わかりました!」
「くくくっ! 逃すと思うのか!」
ヒカルの背中から、無数の触手が伸びる。それは予想外のアクションだった。こいつ、取り憑かれてやがるのか! このままでは、あの二人がやばい! 触手は真っ直ぐに二人に向かって行く!
「くそっ!」
俺はヒカルに掴みかかっていた為、触手を阻む事が出来なかった。ならば、とヒカルを投げ飛ばす。投げる事によって、触手の軌道をそらそうと試みたのだ。
「無駄!」
だがヒカルの触手は迷う事なくアルベルトとフィールを捉え、彼らの腹や胸を突き破り、口から頭蓋を貫通し、目玉をえぐりとる。
「ぐえええっ!」
「うごぉっ!」
最後に全身を雑巾のように絞りあげられ、ボキボキと骨を折られて二人は息絶えた。いや、その前に死んでいただろう。それをわかっていて、ヒカルはその亡骸を玩具にした。
「はははっ! 殺害完了〜!」
その目には、狂気が宿っていた。
「お前はヒカルじゃない! 誰だ! ヒカルの体から出て行け!」
俺はヒカルの体を床に叩きつけた。その衝撃で、取り憑いている奴が出て行けばいいと願った。
「くくくっ。何を馬鹿な。僕は勇者ヒカルさ。貴様が目障りなのだよ、吸精王!」
吸精王、と再び呼ばれて俺はハッとなった。こいつは、国王だ。直感が告げる。そして、アンニュイ以上の魔族......デーモンを従える者、デビルだ!
ヒカルの体を傷つけずにコイツを始末するには......方法は一つしかない!この俺にしか出来ない事だ!
「ヒカル! 今助けるぞ!」
「なっ! んうっ!」
俺はヒカルをグッと抱き寄せ、唇を重ねた。




