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99 婚約証明書

いよいよ大詰めになってきました。最後までお付き合いよろしくお願いします。

 本当なら俺はとっくに北の辺境伯爵の元へ行っている予定だったんだ。まだ淡雪が舞い散る頃に。

 俺は踏み固められた雪道の中を馬車でゆっくりと進みながら苛立ちを感じていた。

 

 秋の終わりに挙げられた兄とアルビー嬢の結婚式には、べルークと婚約者同士で出席するつもりだった。それなのにまさか又温泉を発掘して大騒ぎになり、その結果婚約の手続きがこんなに延び延びになってしまうとは思ってもいなかった。

 しかも、べルークだけ先に辺境伯の所へ行っていた為に、三週間も離れ離れになっている。三週間だぞ、三週間!

 温泉郷の件が一段落してようやく出立しようと思ったら、今度は吹雪が五日も続いて更に出発が遅れてしまった。

 

「そんなにイライラしないで下さい。明日の昼過ぎには着きますから。そもそもこんな真冬に北の辺境伯の所へ行こうと思うのが間違いなんですよ。べルークだって春まで待ちましょうと言ったんでしょ」

 

 もう四日も不機嫌な俺に付き合わさられているベスタールが、それでも平然としているのは敬服ものだ。さすがカスムーク一族。そして三年後に俺が侯爵の爵位を授与されて独立する際には、俺の執事になる予定になっている男だ。

 

「そんなに待てる訳ないよ。早くべルークを俺の婚約者だって公表したいんだ。年がら年中目の前で、恋人が老若男女に告白されるのを見るのはもう耐えられない」

 

「まあ、お気持ちはわかりますが」

 

「それに、俺がのそのそしているうちにべルークの婚約者との結婚話が先に進んでしまって、断れなくなったらどうするんだ!」

 

「まぁ、それはないとは思いますが・・・」

 

 ベスタールは今度は苦笑いをした。

 

 

 登城して陛下と謁見し、べルークとの結婚を認められた俺は、屋敷に帰ると早速両親にべルークと結婚をしたいと話をした。俺とべルークは既に半ば公然の仲だったので、両親はカスムーク氏の許しが得られればもちろん認めようと言ってくれた。

 そこで直ぐ様べルークと共にカスムーク氏の元へ訪れた。

 

「お父様、息子さんを私に下さい。私が幸せにしますと言うのはおこがましいので、二人で幸せになれるように努力する事を誓います。ですからどうか二人の結婚を認めて下さい。お願いします」

 

 俺の懇願にカスムーク氏は一瞬呆然とした。そしてそれから腹を抱えて笑い出した。カスムーク氏は指で涙を払いながら言った。

 

「ユーリ様の発想が突飛な事には慣れておりますが、今のような結婚の申し込みは初めて聞きましたよ。

 息子さんを下さいですか? まあそれは婿養子に欲しいという時と同じですからまあいいですよ。それに、確かに自分が相手を幸せにするなんて傲慢ですよね。かつて私も神に妻を守ると誓いましたが、実行出来ませんでしたしね。二人で幸せになる、いい誓いです」

 

「父上はちゃんと誓いを守りました。母上は父上と結婚出来て幸せだったとおっしゃいました」

 

 べルークは父親の手を握って泣きそうになりながら言った。すると、カスムーク氏もさっきの泣き笑いではなく、せつなそうな笑みを浮かべてべルークを抱き締めた。

 

「ありがとう。そう言ってくれて。でもロゼリアを優先する為にお前を犠牲にしてしまった私は最低な父親だった。本当にすまなかった。 

 ロゼリア亡き後、私は残りの自分の人生を全てお前の為に使おうと思った。

 しかし、実際にお前を守り、幸せにしてくれたのはユーリ様だったね。それが嬉しくもあり寂しくもあったが、こうやってユーリ様と結ばれるなんて、まるで夢のようだよ」

 

 カスムーク氏はべルークの背を優しく撫でながら、涙の溢れた目で俺を見た。

 

「べルークを今日まで守り愛して下さってありがとうございました。ユーリ様に守って頂けなかったら、私一人では守り切れなかったでしょう。べルークはどんな酷い目にあっていたかわかりません。

 これからもべルークをよろしくお願いします」

 

 頭を下げたカスムーク氏に俺も慌てて頭を下げた。それから婚約証明書にサインをお願いしようと両手で差し出した。しかし、彼はそれを受け取ってはくれなかった。

 

「「???」」

 

 俺とべルークは戸惑って顔を見合わせた。カスムーク氏は今自分達を認めてくれた筈なのに、何故受け取りを拒否するのだろう?

 

「父上?」

 

 不安そうにべルークが声をかけると、カスムーク氏は優しい顔で諭すように息子にこう問いかけた。

 

「お前が一番よくわかっているだろう? このままではユーリ様とは結婚出来ないという事は・・・」

 

「どういう事ですか?」

 

「私とべルークには大きな秘密があります。それはべルークを守るためのもので、成人したら全て公表するつもりでしたが、今婚約するとなると、その秘密をユーリ様に打ち明けなければなりません。私はどちらが良いのかは判断出来ないのですが、親としてはできれば婚約は成人してからにして欲しいのです。ユーリ様!」

 

 秘密・・・それはいつか必ず明かしてくれるとべルークが言っていた事だな。俺は俺の部屋で一緒に休んだあの時の約束はきちんと守るつもりだ。だからこそこう言った。

 

「カスムークさん、成人するまで秘密を聞きたいとは思いません。いえ、たとえどんな秘密があっても俺は構いません。もののたとえですが、仮にべルークが魔法使いだったり、悪魔だったり、犯罪者だったりしても俺はべルークを愛し続けます。誓います。だから婚約させて下さい」

 

 俺は必死だった。俺のべルークへの気持ちは絶対に変わらないし、べルークも俺を思ってくれるだろう。しかし、いつ不可抗力な事態に陥るかわからない。べルークを失ったら俺はおかしくなってしまう。

 

「どんなべルークでも貴方は受け入れてくれるですね?」

 

「はい。もちろんです」

 

「べルークが人様に見せられない体をしていてもですか?」

 

 カスムークの言葉に俺は驚愕した。人に見せられない体? 醜いアザとか傷でもあるという事か? そういえば、一度も一緒に入浴した事も川で泳いだ事もなかったな。つまり体を俺に見られたくなかったんだな。女装する時も着替えをするところを人に見せなかったというし。俺はようやく納得した。それは秘密にしておきたいわけだ。かわいそうに。ずっと隠していて辛かっただろう。

 

「そんな事全く関係ありません。俺はべルークの容姿で好きになった訳じゃありませんから。俺は彼の心、人間性を好きになったのですから。べルークが傍にいてくれればそれでいいんです。お願いです。結婚を許してください」

 

 俺の言葉にカスムーク氏は心底ホッとした顔をしたが、俺にこう言った。

 

「私はもちろん二人の事は認めているんですよ。ただ、その婚約証明書は受け取れないんです。何故ならもう既にべルークの婚約証明書は役所に提出されてあるので、二枚は受け付けてはもらえないんです」

 

「べルークが誰かと婚約しているというのは本当なんですか?」

 

 カスムーク氏は頷いた。

 

「そんな事僕は聞いていません。僕の婚約者って一体誰なんですか? 父上はどうして今までそれを僕に隠していたんですか? 僕が婚約者持ちなら、僕はユーリ様を騙した事になります。そんな、酷い!」

 

 べルークは真っ青になってガタガタと震え出したので、俺は慌てて彼を強く抱き締めた。

 

「べルークは生まれた時から母親のロゼリアに瓜二つだった。それを心配した北の辺境伯夫人、つまりお前のお祖母様がお前を守る為に婚約をさせたんだよ。将来お前が無理矢理に誰かに結婚を迫られても、法的にはっきり断れるようにと。

 こう言ってはなんだが、相手方も防波堤の役割だとわかっていて婚約のサインをして下さったのだ。つまり名義貸しのようなものだ」

 

 カスムーク氏の言葉に俺達は眉を顰めた。いくらなんでもそれは相手に失礼だろう。もしあちら側に結婚したい相手が出来たらどうするつもりだったんだ。そんなに簡単に婚約破棄出来るのか?

 そんな俺達の考えを見抜いたカスムーク氏はこう言葉は続けた。

 

「相手方とは二人がどちらも成人したら婚約はなかったものにすると決めていたんだよ。お互い本当の婚約証明書が必要になるのは成人した後だろうと。

 だから成人前の今二人が婚約をしたいというのなら、相手方に説明をしなくてはいけない。だから、この婚約を決めた北のお祖母様の所へ二人で行ってお願いしなさい」

 

 俺達は直ぐ様北の元辺境伯夫人に、お目にかかりたいと連名の手紙を出した。すると、返ってきた返事には、了承したが、まず最初にべルークと話がしたいから、べルークだけ先に一人で来るようにと書いてあった・・・・・・・

後わずかになってきたので、出来れば一日二回投稿出来たらいいなと思っています!

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