97 陛下との謁見
ユーリがいよいよ覚悟を決めました!
完結までいよいよあと僅かとなりした。100章だと切りがいいのですが、少しオーバーするかもです。
最後まで読んで頂けると嬉しいです。
「久しいのう、ユーリ=ジェイド。暫く見ぬうちに大分大人になったな。ますますジャスティスやザーグルに似てきたな」
ジャスティスとは父親の名前だ。陛下は母の幼馴染みなので、私的な場所では幼い頃から面識がある。しかし、四年前の例の殿下達の大喧嘩騒動以降は、俺は極力城へは近づかなかったので、陛下のご尊顔を拝見するのは久しぶりだった。
「先月の『森作り競技大会』並びに先日の温泉発掘の件、全く素晴らしいお手並みだった。我が国は君のような有能な人材を得ている事を誇りに思う」
得ているってどういう意味ですか? 俺は国の所有物じゃないですよね? 俺はまだ国に忠誠を誓っていませんし。
「この度の功績に対して、そなたにはそれ相当の多大な褒章や褒美を与えよう」
いや、結構です。五人で岩石を砕いていた中でたまたま俺の所から温泉が湧き出ただけですから、と俺は陛下に申し上げた。しかし、
「以前の癒しの魔剣事件やスウキーヤの詐欺事件においても、何をしている! 臣下にその功績に見合った褒美もやれないような国王には忠誠を尽くせぬ! と臣下や国民達から批判が殺到しておったのだよ。私の王としての立場がこのままだと危うくなるのだ」
そんな大袈裟な事言わないで下さいよ。俺をこの国に取り込もうしているのが見え見えですよ、陛下! 俺はまだ臣下じゃありません。一介の伯爵家の二男で学生です。 まぁ、俺もやっと覚悟は決めたので、べルークとの事さえ認めてくれれば臣下にでも何でもなりますけどね。
「そなたの望みはなんだね?」
「思い人との結婚の許しです」
「それは誰だね?」
「カスムーク男爵の二男のべルークです」
俺がこう答えるととうに知っていると思われる陛下は、ゆっくりと威厳を保ちながら頷いた。
「ああ、カルストード侯爵の縁続きのご令息だったね。国一番の美貌と評判だったロゼリア嬢の子息で、大変優秀な人物と聞いているが、確か男女の双子だと聞いておる。そなたの相手は妹の方の間違いじゃないのかね?」
カチン、カチン、カチン!! 俺が不敬にもムッとした顔をした時、陛下の両隣にいた皇太子殿下と弟殿下が同時に咳払いをした。そしてローソナー殿下が陛下の耳元でこうおっしゃるのが聞こえた。
「陛下、ユーリ殿に他国へ逃亡されても構わないんですか? 余計な事をおっしゃらずにさっさと許しを与えて下さいよ。そもそも、陛下の許可など本来不要なんですから」
「ああ、べルーク殿がカルストード侯爵の養子に迎えられた後、婚約を認めよう」
陛下のこの言葉に俺は静かに切れた。
「申し訳ありません。先程の件は撤回させて下さい。私の望みはこの国を出る許可に変更させて頂きたいと存じます。よろしくお願い致します」
「なに!!」
「私はセリアン=カスムーク男爵の息子であるべルークと結婚したいのです。カルストード侯爵家の人間と結婚したい訳じゃありません。
私の最大の望みが叶わぬのならば、叶う土地へ行くだけです」
「だから余計な事を言わず、素直に認めればいいと言ったでしょ!」
セブイレーブ殿下が怒鳴った。
「しかし、男爵家の息子だぞ! 息子!」
「だからそれがどうしたんですか! 同性婚を認めたのはこの国ですよ。それにユーリ殿には爵位がないのだから、誰と結婚したって構わないでしょ!」
と、ローソナー殿下も援護射撃をしてくれた。
「しかし、侯爵位を授けるのだぞ。釣り合いが悪いだろう!」
「それは陛下が勝手に授けたがっているだけで、ユーリ殿が望んでいるわけじゃないでしょう! そもそも二人を先に結婚させてから爵位を授ければ何の問題もないじゃないですか!
大体そんな風に頭が固いから側近達に騙されても気付かなかったんですよ。私も人の事は言えませんが、貴方に従ったせいで、私は大切な人を失ったんだ! 大事な友人にまで同じ事をするなら、私もこの国を出て行ったら二度と戻りませんよ!」
セブイレーブ皇太子殿下は本気で怒ってくれていた。殿下の友人と言ってもらえた事が以前とは違い、本当にありがたい、嬉しいと思った。
息子達の怒涛の責めに陛下は珍しくアワアワしていた。宰相を務める叔父のイオヌーン公爵によると、例のスウキーヤ事件関連で、陛下の周りにいた保守派の側近が大分失墜したらしく、立場は不安定になっているらしい。元々宰相に執務を投げて職務怠慢気味だったので、それとなく隠居を勧める高位貴族もいるとも聞く。
そこでこの度の温泉発掘で庶民の人気評判が高まった俺を利用したいと思ったらしいが、結局従来通りの考え方は変えられないようだ。まぁ、人ってそんなに簡単には変われないよね。
しかし、俺の思考は理解出来なくても、俺に国を出られたら困るという事は何となくわかるらしく、焦ったように俺にこう言った。
「こらこら、そう結論を急ぐではない。最初のそなたの願いを叶えないとは余は一言も言ってはおらん。
もちろん、そなたとカスムーク男爵のご令息との婚約は認めよう。そして、結婚と同時に一代限りの侯爵の爵位を授与しよう。そして出来れば、卒業後は宰相の下について国政を学んで、将来、息子達を支えて欲しい」
「身に有り余るお言葉を頂き、恐悦至極です。謹んでお受け致します」
俺が即答すると、両殿下は意外そうな顔をした。ずっと側近になる事を嫌がっていたのを周りから聞いていたのだろう。
謁見の間から退室して皇太子殿下の応接間に通され、そこでお茶を飲みながら俺は両殿下に向かって深々と頭を下げた。
「先程は援護射撃して頂きまして、誠にありがとうございました。両殿下のお口添えがなかったら、とても許可は頂けなかったでしょう」
「信じられないよな。ここまで状況判断が出来ないとは。よく今まで国を治めてこられたな」
「治めてないだろう。父上はただの飾り物で、治めていたのはイオヌーン宰相だろう。全く、学校で何故きちんと学ばなかったのだろう?」
ローソナー殿下の発言にセブイレーブ皇太子殿下が突っ込みを入れていた。
「なんでも、陛下が在学中はまだ権威主義が強くて、学校側も当時まだ皇太子殿下だった陛下に対しては厳しく出来なかったんだそうです。どうせ帝王学を学ばれるだろうから、学校で学べなくても何とかなるだろうと。
しかし、結果が・・・それでその教訓をいかして、両殿下の時には手を抜かずに厳しくされたそうですよ。誰がおっしゃっていたかまでは申せませんが」
俺の話に両殿下はなるほどと酷く納得されていた。
「本当に俺達の側近になってくれるのかい? どういう風の吹き回しだい? あんなに嫌がっていたのに」
ローソナー殿下の問いに俺は真面目な顔で答えた。体調を崩した時からずっと考えていた事を。
「煩わしい事から逃げるのはもう止める事にしました。正直まだ自分の感覚と周りの皆様から頂いている評価には認識のズレがあるのは確かなんです。
それでもただ目を背けて逃げるより、皆さんからの思いに近づくよう努力すべきなんじゃないかと。
同年輩の友人や兄弟達と色々話し合ううち、ようやく決心が出来ました。
それにべルークと一緒にいるためには、もっと自分に自信をつけないといけない事を思い知りました」
自分に自信を持てないと、またべルークに対して卑屈になったり、つまらない嫉妬心で彼を苦しめてしまうから。情けない過去を思い出して俺は少し恥ずかしくなったが、勢いでこう続けた。
「俺、責任とるのが嫌だから、隠れて人助けみたいな事をしていたんだと思います。でも、これからはユーリ=ジェイドとして責任をとる覚悟で、少しでも多くの人に寄り添えるような施策を、両殿下の元で進めていけたらと思っています」
「だから、その政策を実行させやすくするための手段として、爵位を受ける事にしたんだね?」
セブイレーブ皇太子殿下の殿下の言葉に俺は大きく頷いたのだった。




