95 執事事情
間が空いてしまいました。また読んで頂けると嬉しいです。
ラストまで頑張ります。
バーベキューの昼食が終わった後、俺は両家の執事や侍従達と共に後片付けをきっちりとやった。
それから食後休憩をしていたみんなに向かってこう言った。
「皆さん腹ごしらえもすんだので、今日のメインイベントを始めようと思います」
「「「メインイベント?」」」
「「「一体何をするつもり?」」」
聞いてないぞとばかりに、みんながザワザワしだした。
「先日の『森作り競技大会』におきましては、皆様にもご協力頂きまして、心より感謝いたします。
そしてそのお礼として、今日は皆様のストレスも解消して頂きたいと思います」
「「「? ? ?」」」
「実はですね、先日の大会の時、ABCの三つの区域に分けて行いましたが、本当はDまであったんです。
しかし、そこは森の一番奥の岩山の麓で、山から崩れ落ちた大きな岩がごろごろ転がっていて、樹木はあまり育たずに、低木か雑草しかはえていない場所なんです。
森作りの観点から言えば、他の区域とは違い、木ではなくほとんど岩を打ち砕く作業となります。しかもそこは、栄養分もほとんどない土地ですから再生作業も高度な癒し魔法が必要となります。
ですから、かなりの上級魔力持ちでないと無理だったので、競技大会には加えなかったんです。それで・・・」
俺が説明し終える前に姉のミニストーリアが口を挟んだ。
「イオヌーン公爵家の癒しの血筋の者ならば出来るでしょう? って事なのかしら?」
「その通りです、姉上」
俺はわざとらしい笑顔で言った。
「でも、肝心の上級攻撃魔力持ちはどうするんだ? このメンバーではお前しかいないだろう? 」
兄のザーグルが言った。そう、イオヌーン公爵家は全員が癒し魔力持ち。我が家は代々魔力無しが多かったが、祖母と公爵家の出の母の影響で、今は珍しく魔力持ちの方が多いのだが、それでも強い攻撃魔力を持つのは俺だけだ。しかし、
「ええ、そうなんです。ですから助っ人を頼んであります。強力な攻撃魔力の持ち主で、しかも溜め込んだストレスを発散させたがっている方お二人に。両殿下、お願いします!」
俺が大声で叫ぶと、薪をしまっておく室からセブイレーブ皇太子とローソナー殿下が現れたので、その場にいた全員が固まった。皆の頭に!や?マークがたくさん浮かんだ事だろう。
どうしてこの身内のイベントに殿下達が・・・?
どうやってここまで・・・?
護衛はどうした・・・?
城内は大騒ぎになっていないのか?
エミリアの事はどうする?
「今日はこのような催しに招待されて嬉しく思う。ありがとう。
先日の大会の参加者達は全員が日頃の鬱憤が晴らせてさっぱりしたと語っていた。私達も溜め込んだものを全て出し切りたいと思う。よろしく頼む」
ローソナー殿下がにこやかにこう話された。殿下達は真新しい侍従服を着ている。
両家のもの達が改めて周りをよく見回すと、近くでキャンプを楽しんでいる家族連れの貴族達のグループは、皆近衛騎士団の面々だった。
近衛騎士のドラドット子爵も家族でキャンプをしていた。ジェイド家では顔馴染みのエミストラがニカッとこちらを見て笑った。
何故今まで気付かなかったのか、国の宰相を務める叔父イオヌーン公爵と、事務職とはいえ軍人である父は渋い顔をして、カスムーク氏と俺を見たが、俺達は華麗にスルーした。
十五歳以上の魔力能力検定七段位以上者は強制参加と俺が宣言すると、女性陣は恨めしそうな目で俺を見たが、殿下達の前なので何も言わなかった。
結局俺のせいで強制参加させられる羽目になったメンバーは次の通り。
叔父アグネスト=イオヌーン公爵、従姉エミリア、エミリアのすぐ下の弟で従弟アーノルド、母グロリアス=ジェイド伯爵夫人、姉ミニストーリア・・・これが癒し魔力の持ち主。
セブイレーブ皇太子殿下、ローソナー殿下、イオヌーン公爵家筆頭執事バイゼン子爵、俺、そしてベスタール・・・これが攻撃魔力の持ち主。
俺がベスタールの名を出すと、両親とカスムーク家の者以外が驚いた顔をしていた。
そう、俺だけじゃなくベスタールは攻撃魔力を持っている事を隠していた。俺は先日体調を崩して世話になっていた時に、彼からその話を聞いて知っていた。
「姉上、義兄上、酷いじゃないですか! ベスタール君には魔力が無いと言っていたじゃないですか。だからうちに来て貰うのを諦めたのに」
いつも冷静沈着な叔父が珍しく怒りを表に出して姉夫婦に文句を言った。俺も以前イオヌーン公爵家がベスタールを執事として来て欲しがっていたという事は知っている。
カスムーク一族は代々優秀な執事を出す家柄で、カスムーク家出身の執事がいる家なら信用出来ると言われるほどのブランド力がある。
しかし候爵以上の貴族は爵位、または魔力持ちの者でなければ執事にする事が出来ない決まりがあるのだ。何故なら、主が留守の場合には主の代行をするのに、爵位あるいは魔力持ちでないと威厳が保てないというのだ。本当にくだらない習わしだ。能力と爵位は全く関係ないだろうに。
ベスタールは幼い頃から大変優秀で、叔父夫婦は娘のエミリアの侍従として雇いたがっていた。しかし、爵位のないベスタールはどんなに優秀であろうと、魔力がなければ将来執事にはなれない。
カスムーク男爵の弟でベスタールの父親は息子を立派な執事にしたかったので、イオヌーン公爵家からの話をきっぱり断った。勤め先の爵位の高さや裕福さなどカスムーク一族には関係ないのだ。
結局ベスタールは将来どこかの執事になる為に、修行として我が家で姉ミニストーリアの侍従をしているのだ。
勝気で感情の起伏が激しくお転婆な姉が社交界のツートップと呼ばれるまでになったのは、偏に傍に付いていたベスタールのお陰である事は周知の事実だ。
もし、ベスタールがエミリアの侍従になってくれていたら、彼女は皇太子の婚約者としてもっと楽に過ごせたのではないか、恐らく叔父はそんな事を考えているに違いない。魔力持ちであったのなら執事にだって取り立てられたのに、何故それを隠していたのかと。
「自分の能力を隠していたのは貴方も同じだったでしょ、アグネスト?
ベスタールは魔力無しでも純粋に執務能力で執事として認めてくれる働き口を探していたのよ。
それに彼を執事にする為だけに、無理矢理好きでもない娘との縁談持ち込まれて貴族の婿養子にされたらたまったもんじゃないでしょ。高位貴族からの縁談はそう簡単には断れないのだから。つまり候爵家以上の貴族の家は最初から問題外だったのよ」
母がこう言うと叔父は悔しそうな顔をした。多分ベスタールを雇い入れたら、母が言っている手を使って執事にするつもりだったのだろう。まあ、無理矢理好きでもない相手とはくっつけたりはしないだろうが。
母は何故か俺をチラッと見てから叔父に向かってニッコリ笑った。
「貴方は生まれながらの婚約者が運命の相手だったから良かったけれど、みんなが周りから決めた相手と幸せになれるかはわからないでしょ。もちろん自由恋愛をしたってそうでしょうけど。どちらにしても幸せになれる確証がないのなら、自分で選びたいわ。ジェイド家では自由恋愛を勧めているの。そしてカスムーク家もそうなのよ」
母の言葉に、俺は少し反感を持った。確かに兄や姉も自由恋愛で結婚する予定だ。しかしカスムーク家もそうとは限らない。だって、べルークには生まれながらの婚約者がいるというじゃないか。
俺は近々その事に対処するつもりだ。まだ婚約者同士が顔合わせしないうち破談にしなければ、相手方に失礼になる。相手の女性の傷を出来るだけ小さくしたい。加害者の言っていい事ではないのだが。
ともかく、俺は脱線した議事進行を修正しようとペアを決める為のクジ引きの棒の入った二つの筒をみんなの前に指し出した。
「俺の右手の筒が癒し魔力持ち、左手の方を攻撃魔力持ちの方が引いて下さい。棒に付いている色と番号が同じ人同士がペアを組んでください。変更は不可です」




