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75 姉からの依頼

ユーリが子供の頃から、地味な振りをして暗躍していたエピソードです!

 それは皇太子殿下の側近が本当にクズだったからだ。あいつらがある事ない事、弟殿下の悪い噂を皇太子殿下に囁いていたのである。


 皇太子付きの近衛騎士達は当然弟殿下の近衛騎士とは同僚だったので、ローソナー殿下の性格は把握していて、兄の皇太子に盾突こうなどとは露にも思っていない事を理解していた。しかし、それを皇太子殿下に進言できる立場ではなかった。

 

 陛下も皇后様も皇太子殿下ばかりに期待をして、弟の方には全く関心を示さなかった。

 その証拠に皇太子には生まれると同時に、コーンビニア皇国の頭脳と呼ばれる宰相であるイオヌーン公爵の娘と婚約させている。それに比べて、ローソナー殿下の事は、外国へ政略結婚させるのか、公爵の地位を与えてセブイレーブ殿下の臣下にするのか、その方向性さえ示さなかった。


 それ故に、ローソナー殿下のみならず、俺の姉のミニストーリアまでも多大な迷惑をかけられたのである。

 

 二人の皇子殿下とエミリア、そして兄と姉は年が近かったので、パーティーなどでよく顔を合わせていた。

 しかし、無口で愛想がなく友達作りが苦手だったローソナー殿下は、放っておくといつも一人でポツンとしていたらしい。そこで元気で活動的だった姉が無理やり引っ張り回していたらしい。

 そう、姉は同じ年の殿下を、実の弟達同様、自分が面倒を見なくちゃとずっと思っていたらしい。殿下も姉の前だけでは笑顔を見せていた。

 

 とは言え、いつまでもそんな関係が続けられる訳がない。年が上がるにつれて、親に言われるまでもなく、二人は次第に接触を避けるようになった。

 くちさが無い大人達だけでなく、皇子の婚約者を狙う女性達から姉が嫌がらせを受けるようになったからだ。


 皇太子殿下には生まれながらにエミリアという婚約者がいる。そこで未だフリーの弟皇子殿下に貴族達は狙いを定めたのである。それ故にいつも彼の側にいる姉は邪魔者以外のなにものでもなかった。

 しかも、反宰相派からすれば、皇太子妃だけでなく、弟殿下の(きさき)まで、彼の姪になる事だけはどうしても避けたかったので、その妨害はかなり目に余るものであった。

 

 あの当時、俺はこっそりと姉の周りを徘徊し、出来る範囲内で姉を護衛していた。本物の護衛がいる中で誰にも気付かれずに魔力を使うのは至難の技だったよ。

 もっとも、幼い頃から俺は地味ボーイで目立たなかったし、呪文をかける際に詠唱する必要性がなかったので、他の人と比べるとやりやすかったかもしれないが。

 

 護衛騎士の皆さんは、暴漢対策ばかりしていたけれど、貴族のご令嬢は、そんな乱暴な真似はしないんですよ。もっと陰険で危険な方法がお好きなんです。そう、毒薬とかね。


 俺、何度かやりましたよ。姉のドリンクに何か異物を入れたご本人とグラスを差し替えたり、その余裕がなかった場合は、ご本人にかけて差し上げたり。やはり、ご本人に責任はとって頂かないとね。


 ちなみに、自分で作った毒入りドリンクを飲んだお嬢様達は、みんな命は取りとめました。ご本人も付き人も、何故かそちらの方の知識がかなり豊富だったご様子で。

 

 俺はこの時の経験で、城内での勢力図が自然と頭に入った。そして信用出来る人物かそうでないかを貴族名鑑にチェックを入れたよ。将来敵になりそうな奴らを調べあげるためにね。

 

 聡い姉は自分が政争の道具に使われる事を避ける為、嫌がらせが大きくなる前に、誰に言われるまでもなく弟殿下から距離をとった。そして殿下の方もその理由を察したらしい。

 しかし、姉が離れたその頃からローソナー殿下の様子がおかしくなってきたという。

 

 感情がほとんど外に出ないクールで冷静沈着なタイプだったのに、常にイライラして怒りっぽくなった。若い女性が話しかけようものなら、酷く不機嫌な顔をし、手などを触れられたら邪険にそれを払い除けた。そして、

 

「鬱陶しい、近寄るな!」

 

 と言い放った。

 まあ、硬派の殿下って言うことで、特段悪い評判がたったという訳ではなかったが、殿下の事を長年見てきた姉からすると、なんか悩みがあるように思えたらしい。

 

「貴方なら、地味で目立たないから、宰相反対派からも注視されないだろうし、『皇子さまぁ、何かあるなら僕に相談してくださぁい』っていつものようにかわいい弟キャラで笑いかけたら、きっと気を許して何か言うと思うのよ。あの無口皇子でも」

 

 姉上、俺の事をそんな小悪魔ぶりっ子キャラだと思ってたんですか? こんなに純粋無垢な弟を! いや、確かに色々隠し事をしていましたが。今思うととっくに俺の本性見破っていたのかなあ。べルークやイズミンのように。

 

 とにかく、姉同様お節介だった俺は姉の依頼を受ける事にした。

 

 ローソナー殿下の十四歳の誕生日パーティーに兄と共に招待された俺は、殿下に可愛くこうお願いしてみた。

 

「殿下は攻撃魔力だけでなく、武道もお強いとお聞きしております。一度ご指導して頂けないでしょうか?」

 

 すると、ローソナー殿下は疑わしそうな目で俺を見た。今まで一度もそんな事を言った事ないのにどうしたんだと。だから俺は言った。

 

「大人になれば大した違いはないのでしょうが、子供の二才差はかなり大きいですよ。だから、今までは殿下にお相手して頂こうなんて考えてもみませんでした。でも、僕も十二歳になったので、少しは殿下のご指導に耐えられるのではないかと思うのです」

 

 俺はニコッと笑った。

 

 パーティーから数日後、ローソナー殿下から招待の手紙を頂いたので、俺は一人で王城へ向かった。べルークは母親の見舞いの日だったので。

 

 王城の練習場で俺はローソナー殿下と対戦した。俺は軍人の子として攻撃的な戦闘法だったが、殿下は当然ながら防御を主とした戦い方だった。 


 立場によって戦闘スタイルが違うのは当たり前だ。俺達軍人(俺自身は成るつもりはないが)は、己ではなく、国のため、国民のために闘わないといけない。

 それに比べ王族の方々は国のため、国民のためにその身の安全を守らなくてはいけないのだ。

 たとえ寧ろお互いに逆の型にした方が合っているとわかっているとしても。


 俺は全力でぶつかった。ローソナー殿下がどれくらいの力で対戦してくれていたのかはわからなかったが、時間オーバーの引き分けで模擬戦は終了した。

 

 その後、殿下の護衛騎士にも相手をしてもらい、楽しくて俺は珍しくハイテンションになった。

 最近になって、俺が近衛騎士団に目を付けられる最初のきっかけが、あの時だったと知った。

 地味過ぎて顔も覚えていなかったが、ジェイド家の二男もなかなか強いじゃないかと。

 

 いつも自宅で見慣れた人間とばかり練習してきたので、色々と型の違う武人に相手をして貰えた事は運が良かった。そのうち、町にも出て修練しようと考えたのもあの時だった。

 今もそうだが子供の頃から俺はずっと強くなりたかった。愛するべルークを守り抜く為に。

 

「君はずいぶんと強いな。大分鍛錬を積んでいるね」

 

 ローソナー殿下に褒められて、俺は素直に喜んだ。強いなどとそれまで誰にも言われた事が無かったからだ。父にも兄にもカスムークさんにも、家の護衛騎士にも一度も勝ったためしがなかったのだから。

 

「私の今の目標は兄に一度でいいから『参った!』を言わせる事です。殿下はもう、皇太子殿下に言わせましたか?」

 

 俺の質問に殿下は下を向き、護衛達が慌てるのが見えた。あれ? 俺、なんかまずい事言ったのか?

 

「私は今まで一度も兄と対戦した事はないよ。練習した事も」

 

「えっ? 何故ですか、ご兄弟なのに」

 

「私が兄に、いや兄の側近に疑われているからなのだろう。私が対戦中に兄を傷つけるのではないかと。

 私の周りには幼い頃から兄とは対抗する勢力がまとわりついていたんだ。全く気付かないうちに。ただ途中からミニストーリアに教わって、そういう奴らは側に寄せ付けなかった。だけど、兄は何年経っても私を信じてはくれない。

 そして今度はあいつらがミニストーリアに嫌がらせを始めてしまった」

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