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71 宝探し計画

 会合の後、アピア氏、ジャスター氏、イセデッチ氏はそれぞれの馬車で帰って行った。

 

 アルトナとニルティナ姉妹はジェイド家の侍女達と夕食を取った後、ジェイド家の護衛の者と共に家紋のない地味で目立たない馬車で、それぞれの屋敷へと帰宅していた。

 

 ただヤオコールさんは屋敷に泊まり、祖父のジョルジオさんと共に、俺の書いた手紙をサンエットに届けるために、早朝騎乗して出かけて行った。

 

 父は何か言いたげだったが、俺は疲れたので休みますと言って、客人達を見送ると、すぐにべルークと共に部屋へ戻った。

 

 部屋の扉を閉めると俺は侍女姿のままのべルークを抱きしめて、その耳元で尋ねた。

 

「疑いは晴れた?」

 

 べルークは頷きながら「すみませんでした」と小さな声で言った。

 

「学校を卒業したら俺はお前と結婚したい。もし周りの者達がそれを認めてくれなかったら、俺はお前と市井に下るつもりだ。そう簡単ではないだろうが、俺は市井でもやって行けると思う。一緒に付いて来てくれないか」

 

 告白するには十年もかかったくせに、早すぎるプロポーズだとはさすがに思ったが、大切な事は早めに言うべきだと俺は考えた。そうすればべルークにも俺の卒業までに覚悟が出来るのではないか、そう思ったからだ。

 

 しかし、べルークは考える時間は要らなかったとみえて、即座にこう返答してくれた。

 

「いつでも何処へでもお供します」

 

 と。

 

 

 会合から数日経った。

 ジェイド家を含め、城内も軍部も警護隊の詰所も表面上変化はなかったが、水面下では皆忙しそうだった。

 我が家には毎日のように青物屋の御用聞きの振りをしたアルトナ嬢や、騎士団や軍の使者からの報告が届けられていた。

 

 そして俺はというと、翌日からべルークと共にエミストラの家へ通っていた。そしてそこへオルソーが合流して、『宝探し』についての計画を練っていた。

 

 初日、俺達はイーストウッド地区の地図を広げながら話をした。

 

 イーストウッド地区とはその名前の通り、首都スコーリアの東端にある低い岩山を含む森林地区である。

 ここは豊かな森林資源と水資源に恵まれているため、国の所有地となっているが、広大な土地のため、管理の大変さに国は頭を悩ませていた。だからこそこの土地が国から払い下げになった、などというまことしやかなデマ話を多くの人々が信じたのだろう。

 まあ、毎月発行されている官報をちゃんとチェックさえしていれば騙される事も無かったのだ。しかし貴族とはいえ、主や執事の能力は家それぞれだから致し方ないのかもしれない。

 

「それにしても広大な土地だよな。このうちどれくらい売られたんだ? まさか完売されたわけじゃないよな」

 

 と、オルソー。

 

「十分の一くらいだそうですが、そのほとんどが岩山近くの土地のようです」

 

 べルークがアピア氏の部下から報告された情報を元に答えた。

 

「温泉目的ならそうだろうな。だけど、温泉が出なけりゃ、二束三文の土地だろうに、出ない時の事考えなかったのかな?」

 

 オルソーの疑問に同意する。危機管理能力が欠如しているとしか思えない。

 

「まだ森林の方だったら、森林資源を活用したり、ちょっとした別荘地くらいには出来たかもしれないのにね。まあ、実際は国有地だったから、どっちにしろアウトだけどさ」

 

 エミストラも言った。

 俺達みたいな学生でも考えられる不安要素を何故考慮出来なかったのかな? それだけスウキーヤ男爵の交渉術が巧みだったという事だろうか? 

 きっと交渉相手に、考えたり誰かに相談する間も与えなかったんだろうな。多くの女性を騙して弄んでいたくらいだから、かなり口八丁手八丁だったに違いない。

 

「購入した人に支払った金は戻ってこないのかな? 実はさ、妹の友人の家がその詐欺に合ったらしくて、毎日両親が喧嘩していて辛いって泣いているらしいんだ」

 

 エミストラが顔を曇らせた。

 

「詐欺師連中は金に困ってやっていたのだろうから、もう使い込んでいるだろう。それに被害者は土地詐欺の人達だけってわけでもなさそうだから、悪党達の全財産没収したとしても全額は戻らないだろうね」

 

 こう言ってオルソーも渋い顔をした。

 

「でも、ユーリ様がどうにかして下さるんでしょ?」

 

 べルークが俺に全幅の信頼を寄せてこう言ったが、俺はそれ程人がいい訳じゃない。

 

 考えてもみろよ。この大規模な詐欺事件の被害者の多くが貴族や金持ちで、それで社会問題になりそうだから、被害者を救援するというのでは不公平じゃないか。世の中、詐欺の被害者なんてたくさんいるんだから。

 この世界だけの話じゃない。いつの世だって、本当に困っている弱者はそうそう簡単には助けてもらえないんだ。

 今回俺が手助けしたいと思ったのは、ひとえにナタリア先生とその兄弟達にまで、賠償責任がいかなくて済むようにしたいだけだ。

 

「騙した奴が悪いのは当然だが、今回の場合は、騙された方に全く責任がないという訳じゃない。よく調べなかったり、安易に儲けようとしたりしてるんだからね。多少損をしても勉強代を支払ったと思うくらいの謙虚さは欲しいよね。

 それに、国に助けてもらおうと考えるのはそもそも間違いだ。俺達がしようとしているのは、彼らの再建のための手伝いを少しでもできたらいいな、くらいなもんさ」

 

 俺はここまで言った後、他の三人を見渡した。

 

「それにさ、そもそも俺のこの計画は、癒しの魔剣の時より、成功する確率はずっと低いんだよ。なにせ温泉の源泉を見つけるっていう宝探しなんだから。だから三人にも見つからなくても当然!って思ってくれてないと困るんだよね」

 

「「「え!!!」」」

 

 何? その驚き? そんなに簡単に宝(温泉)が見つかるとでも思ったの?

 

「だってさ、ユーリはいつだって『たまたまだよ』って軽く言って、凄い事平気でやっちゃうじゃないか」

 

「そうそう、困っている人を見捨てておけない聖女様だし・・・」

 

「・・・・・」

 

 ええ、ええ、確かに俺はたまたま自宅の庭から温泉を見つけましたよ。しかし、一人の人間にそんなに何箇所も温泉が見つけられる訳がないじゃないか。俺は攻撃魔法や癒し魔法は使えるが、マジックは使えないし、何度でも言うが聖女様じゃないんだよ。

 

 一人の人間に過大な期待をしないで欲しい。俺が珍しく苛ついているのを見て、三人はシュンとした。

 

「毎度言ってるけどね、俺は自分一人では何もできないの。ただ、たまたま頭に浮かんだ事を提案してるだけ。それを形にして実行しているのは周りの人達なの。

 今回の作戦だって、数撃ちゃ当たる方式なわけで、当てずっぽうの運任せなんだよ。

 見つかったらラッキー! もし見つけられなくても、参加した人達のストレス発散に役立ったらいいな、と思って俺は発案したわけ。つまりは軍人と騎士のためのレクリエーションなの。

 だから、君達も今回の事に人助けだとか、過大な目標を持たないでくれ! 手伝ってもらっているのに偉そうに言って悪いけど」

 

 

 我がジェイド家は首都の中央地区内にあるが、地図上ではその一番東端に位置している。そして広めの敷地の端はイーストウッド地区に接しているのだ。そう、温泉が湧き出た場所だ。

 つまり、この辺りの地下に温泉源があると考えれば、イーストウッド地区側からも掘削すれば温泉が噴き出す可能性があるのではないか、と俺は考えたのだ。

 そう、これは単なる推理、目算なのだ。だから、そう真剣に受け取られては困るのだ。主催者側も参加者側も、是非とも気軽にチャレンジして欲しい!

 

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