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70 かわいいセブ

 今回の内容は、今までの話の流れからは少しずれ、唐突感があるかもしれませんが、読者の皆様の疑問(不満)の一つを解消出来るかも知れないと思っています。

 これからも読んで下さると嬉しいです

 その後、カスムーク氏の仕切りの下でスウキーヤ男爵とその一味、そして彼の小飼いに成り果てた貴族達を、いつ、どこで、どのようにして逮捕するのかの内容を詰めていった。

 皆さん、それぞれのプロなので、無駄のない捜査計画を次々と立てていった。俺はそんな彼らに感心しながら、べルークが用意してくれた便箋にペンを走らせた。

 

 サンエット宛の手紙を書き終えてそれを封筒に入れて封蝋をした。そして顔を上げてべルークを見ると、彼は無表情でその封筒を見ていた。

 怒っている! と俺は思った。でも何故? サンエットに手紙を書いたからそれに嫉妬したのか? これは仕方無い事だとべルークだってわかっているよな? 俺はどうしていいかわからなくなって、少し動揺した。

 

「ユーリ、サンエット様とは相変わらず仲がいいのですね。文通でもしているの?」

 

 姉のミニストーリアが俺に言った。そう、俺の正体は先程の防犯犬の事で明白となったので、彼女も今更といった感じだ。

 

「文通という程でもないですよ。数回、近況報告みたいな手紙のやり取りをしましたが」

 

 俺の手紙はもちろん、俺宛の手紙もみなチェックしているんだから、俺を疑ったりしていないよな? 俺はべルークの顔を見たが、彼は表情を変えていない。どうして?

 

「でもその割にはスッツランドの情報に、随分とお詳しいのですね」

 

 イズミンが言った。ああ、そういう事かと、俺はようやく納得した。俺がべルークの知らないかの国の防犯犬の輸出の話を知っていたので、こっそり彼女と連絡し合っているのかと疑っているのか。

 

「先程のスッツランドの防犯犬の輸出の話は、サンエットからでらではなく、セブオンから聞いていたんですよ」

 

 みんながえっ?という顔をした。こんなところで彼の名前が出てくるとは思わなかったのだろう。

 しかし、セブオンはサンエットの婚約者なのだから、俺とは違って頻繁に手紙のやり取りをしているのだ。

 

 ところが残念な事に、セブオンには天才であるサンエットが寄越してくる手紙の内容をほとんど理解する事が出来なかった。それ故に返事を返すのもままならないので、手紙が届く度に俺に読解を依頼しに来るという訳だ。

 

 弟にだってプライドがあるから、べルークのいない時を見計らって俺のところに来る。俺もそれがわかるから、今までその話を誰にもしなったのだ。

 ちなみに、俺は手紙の中身の解釈はしてやったが、返事に対するアドバイスなどはしなかった。お前の気持ちが大切なんだから、たとえ拙い文章でもいいから、自分で考えて書くようにと勧めた。もちろん、相談には乗ったが。

 

「相変わらず貴方は猛獣使いね。あのセブオンとまともに会話が出来るなんて」

 

 姉が言った。するとピンクモンスターの妹も自分の事を棚上げにして頷いた。二人とも酷くないか。

 確かに語彙能力、頭の回転に多少問題はあるが、こちらがじっくりと聞いてやるゆとりをもてば、ちゃんと意思疎通は出来るんだぞ。

 

 そうか・・・

 俺はこんな時なのに、弟セブオンが何故この家で上手くやれないのかをようやく理解した。

 この家の者達は、他所の平均的な家庭に比べると、皆能力が高過ぎるのだ。弟以外の人間となら自分の能力になんの違和感もなしに通じ合えるので、それが当たり前のような気になっていたんだ・・・・

 

 もっと、弟にあわせて接してやれば良かった。今更ながらに俺は後悔した。理解出来ない、理解してもらえない・・・その苦しみさえ言葉で表わせなかったから、あいつはあんなに暴れたんだ。可哀想な事をしてしまった。

 

 セブオンが何故マリー嬢に肩入れしたのかをずっと不思議に思っていた。しかし、こうして弟の事を思い返してみると、家族の中で誰にも理解してもらえない孤独な状態の自分と、マリー嬢の立場をリンクさせて同情していたのかも知れない。

 実際は父親はともかく、兄弟間は仲が良かったのだが、その事実をセブオンは知る由もなかったのだから。

 

 今回の事件が解決したら、べルークとの事だけでなく、弟の事ももっと対策を考えてやらなくては、と俺は思った。こっちの方が、皇族問題よりずっと大切だ。

 

 多分俺の中にあった前世の弟に対する悪感情が、セブオンに反映されてしまい、諦め、理解する努力を怠っていたのかもしれない。

 前世の記憶を思い出す前は、どんなに迷惑をかけられようと、純粋にセブオンをかわいいと思っていたのだから。

「かわいい、セブ」と俺はいつも弟をそう呼んで、彼の頭を撫でていた。セブオンも嬉しそうに俺を見ていたっけ。

 

 セブオンがべルークに対して邪険にしていたのは、もしかしたら嫉妬していたのかも知れない。俺の目がいつもべルークを追うようになっていたから。

 そうすると、べルーク襲撃事件のそもそもの原因は俺だったのかも。

 俺は自分の事となると、本当に鈍い。

 

 俺はいつの間にか会合とは全く関係のない事に思いをやっていたが、イズミンにゆすぶられて我に返ると、応接間にいる全員の目が自分に注がれていた。

 

「どうしたの、ユーリ。具合が悪いのなら、癒し魔法をかけましょうか?」

 

 母がこう言ったので、大丈夫だと言った。ただ考え事をしていただけだと。

 

「一応、今後の対策案が纏まったのだが、何かお前からも言いたい事はあるかね?」

 

 父の問いに俺はこう願った。被害者はもちろんだが、実際に手を下していない、関係のない加害者の家族も出来るだけ守って欲しい。不幸な人を更に不幸にしないで欲しいと。

 そして最後にある提案をしたら、みんなには不思議そうな顔をされた。しかし、俺の突拍子のない発想に慣れつつある皆さんは快く了承してくれた。

 俺の出した提案とはこんなものだった。

 

「犯罪者の確保が済んだら、攻撃魔法持ちの方々を集めて宝探しをしませんか? 見つけた物は国の所有となりますが、ご褒美はジェイド家から出しますよ」

 

 と。

 

 

 話し合い終了後に皆でかなり遅い夕食を取った。

 その時の話題の中心は俺とべルークの変装についてだった。防犯犬の話が出なかったら、俺だとはわからなかっただろうと皆が言った。

 

「初めての変装だとはとても思えないよ」

 

 アピア氏がこう言うと、

 

「ユーリ君は普段から貴族らしい偉ぶったところがないから、無理せずとも自然に振る舞えるのだろうな。是非、うちの諜報部に入って欲しいよ」

 

 次にジャスター氏が言った。

 

「いや、せっかく強力な攻撃魔法を持っているのだから、皇家を守る近衛になって頂きたい。べルーク君と共に。」

 

 イセデッチ氏は俺ではなく、ベルルことべルークを見ながら言った。確かにイセデッチ氏とべルークが並んで立っていたら、さぞかし華やかな近衛騎士団になる事だろう。俺は付け足しだろうな。

 しかし、べルークを近衛騎士なんぞにして、面食いと噂されている姫様に目でも付けられたらそれこそ一大事だ。

 

「ジャスターさんとイセデッチさんからの勧誘には感謝いたしますが、ご遠慮させて頂きます。俺は出来れば文官になりたいので」

 

 俺がこう言うと、アピア氏が非常に嬉しそうな顔をしたので、今のうちにはっきり釘を刺して置く事にした。

 

「文官になりたいという希望は持っておりますが、皇太子殿下の側近にはなりたいとは思っておりませんし、自分の最低限の要望が通らなければ、無理に文官になるつもりもありません。

 いざとなれば市井に下る覚悟もありますし」

 

 俺のいきなりの爆弾発言に応接間の中はシーンとなった。

 父も客人達も唖然として俺を見ていた。しかし、母と姉と妹は顔色一つ変えず、平然と食事を続けていた。

 そしてカスムーク執事一族は淡々とその職務を全うしていた。ただ、背中にべルークが真剣な眼差しで俺を見つめている事は感じていた。

 弟のセブオンに対して冷たいというご意見を頂いていましたが、この章でようやく取り上げる事ができました。

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