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52 校内の告白行事

 べルークがいかにもてもてなのかがわかるお話です。相変わらず本人はユーリ一筋で、もてている自覚がありませんが。しかし、これが事件に関係していました!

「何か思い当たる事がお前にあるのかい?」

 

 バーミントが弟に尋ねると、べルークは俺の顔を見てから、凄く言いづらそうに「あのう・・・」と言いかけて俯いた。

 すると、エミストラが俺達に代わって、過去の出来事から予測できるいくつかの推理を述べた。

 

「以前べルーク君に振られた腹いせか、またはべルーク君とマリー嬢の噂を聞いて嫉妬したか、あるいは改めて関係を迫ろうとしたか。

 ああ、そういえば先週の試験と武道大会でべルーク君に負けて、連続二位の記録を更新してしまった恨みつらみを晴らそうとしたか・・・・ですかね?」

 

「「「・・・・・」」」

 

 みんな一様に黙った。

 痛い、痛い、痛過ぎるぞ、アンドレア=カラヤント。

 

 そう、名門カラヤント公爵の長子で跡取り息子であるアンドレアは、金髪碧眼の美男子で、成績優秀、運動能力抜群で、非の打ち所ない少年である。

 生まれたのが、一年早いかもしくは遅ければ、学年ナンバーワンの人気者になれた事だろう。ところが気の毒な事に、たまたま同じ年に俺とは違う意味でハイスペックなべルークが存在したのである。

 

 国一番の美貌を持つべルークの前では、どんなイケメンでも霞んでしまう。

 しかも、べルークは俺を守りたいという執念で稽古に励んでいたので、その辺の軟弱貴族の息子なんて全く相手にならなかった。

 その上、俺の役に立ちたい一念で勉強したので、入学してから今までの試験は全てトップの成績だった。まあ、べルークは別に一番を目指していた訳ではなく、俺の役に立つ知識を身につけたいと必死なだけだったのだが。

 

 俺は早いうちからアンドレアが一つ下の学年にいる事に気付いて、彼に、いやカラヤント公爵家に目をつけられないように、少々手を抜いてあまり目立たないようにしろとべルークに忠告していた。

 しかし、くそ真面目で不器用なべルークが、ほどほどに手を抜くなどという器用な真似が出来る筈がなかった。

 

 べルークは何一つ悪くないのだが、逆恨みされて当然である状況におちいってしまった。やたらアンドレアに絡まれ、ちょっかいを出され、嫌味を吐かれ、ライバル視された。

 もっとも、べルークは俺にしか関心がなかったので、華麗に彼をスルーしていたが。

 

 しかしちょうど一年程前だろうか、何を血迷ったのか、アンドレアがべルークに付き合って欲しいと言ってきたのだ。しかも、俺やエミストラが一緒にいる場で。

 

 本当は当然一人の時に告白したかったのだろうが、べルークは授業の時以外俺の傍から離れなかったので、致し方なかったのかもしれない。

 いや、他の連中も皆俺の前で告白しては玉砕していったので、それに倣ったのかもしれない。その方が傷が浅く済むと思って。

 そしてやはり皆と同様の台詞でアンドレアは断られたのである。

 

「申し訳ありませんが、僕には侍従の仕事がございますので、個人的なお付き合いをする余裕がございません」

 

 と、誰も傷付かない理由で。まあ、侍従に恋する暇も与えない鬼畜な主として、悪者扱いされた俺が名誉を傷付けられたと言えばそうなんだろうが。

 しかし、何せ、俺はべルークを愛していたので、鬼畜と呼ばれようが悪党と呼ばれようが、断ってくれた方が嬉しかった。

 

 断られる事がわかっているにも関わらず、何故みんなべルークに告白してくるのだろう? 

 まあ、わかるよ。べルーク程魅力的な子はいないからね。ひと目で恋に落ちても不思議じゃないよね。しかし、普通天使や女神様に告白しようとするか?

 

 誰にも解けない問題だからこそ挑戦したくなるっていう心理? 

 成功者が誰もいない絶壁の危険な山だからこそ登頂に挑戦したくなるっていう、ドーパミンを異常に欲している奴らなのか?

 それとも自分だけは当たるかもしれないとかすかな希望を抱いてしまう、あの宝くじを買う気分?

 

 意気地なしとイズミンには軽蔑されていただろうが、絶対に失くしたくない存在で、絶対に諦められなかったからこそ、俺はべルークに告白できなかったのだが。

 

 とにかく、アンドレアの告白も学校内での恒例行事のようなもので、特に話題になる事はなかったように思う。しかし、それをカラヤント公爵がどう思ったかとは別問題である。案の定、母がちょっと困ったような顔をした。

 

「そのアンドレアさんだったかしら? 多分、お家ではお父様に色々と言われて辛い思いをしているのじゃないかしらね」

 

「どうしてですの? 公爵家の息子なのに一番を取れないからですか?

 爵位と成績なんて、別に比例しませんわよね? 」

 

 姉が不思議そうに言った。大体、出世だけを考えるなら、学校の成績なんてそこそこ上位に入っていれば、高位貴族の場合なんの問題もないのである。

 

「まさかあのカラヤント公爵の息子がべルークに懸想(けそう)するなんて。血って争えないわ。しかも我が家の関係者に、再び面倒事持ち込んでくるなんて、全く困ったものだわ」

 

 意味不明な母の発言に、僕らが首を捻っていると、イズミンがいつもの無邪気さを演じながら爆弾発言をした。

 

「むかし、カラヤント公爵様がお母様目当てに、アグネスト叔父様と一番の取り合いをして、全敗したというのは本当ですかぁ?」

 

 「「「えっ?」」」

 

 今日一番の驚きである。

 両親はぎょっとして末娘を見た。何故お前がそれを知っているのだ!そんな顔だった。そうなのか? イズミン!

 お前の情報網は凄いな。カスムークさん並みだ。間違いなく、お前は将来軍の情報部のトップエージェントになれるぞ!

 

 両親は固く口を結んでそれ以上話をしようとはしなかったので、俺を含め、みんなの視線はおのずとカスムークさんへ向けられた。彼は、我が家の事で知らぬ事はないのだから。

 

「奥様と、弟君のイオヌーン公爵様、そしてご夫人のアンリエット様、そしてカラヤント公爵様は幼馴染みなのです」

 

 カスムークさんの説明にそうだろうなとみんなは思った。皇家に一番近い家の者同士だから、何かにつけ顔を会わせる事も多いだろうし。

 

「あと、ロゼリアもね」

 

 母の言葉に俺達兄弟とカスムーク兄弟はえっ?と思った。


「お前達には言っていなかったが、お前達の母方のお祖母様は侯爵家の出だ」

 

 カスムークさんに続いて母がこう補足した。

 

「長期休みになると、ロゼリアは母方の実家にお母様と里帰りして、私達と遊んでいたの。ロゼリアは幼い頃からとにかくかわいらしかったのよ。年は一つ下で妹のように大切に思っていたわ。

 でもロゼリアは都に出て来る度に沢山の人に告白され、誘われて、危ない目にあって、すっかり都が嫌になってしまったの。そして十二歳以降は、都には来なくなったわ。

 もちろん手紙のやり取りはずっと続けていたけれどね」

 

 ああ、だからカスムーク夫人の葬儀の時、母はずっと前辺境伯夫人の傍に寄り添っていたのか。昔から知っていたんだ。

 

「子供達の前、いえ、お客様の前でこんな話をしていいのかしらと思ったけれど、今日はもう散々我が家の暴露話をしてしまったのだから今更って気がしてきたわ」

 

 母からは、もうどうでもいいわ感が漂っていた。

 ユーリの母上の意外な過去が次章でわかります。楽しみにして頂けると嬉しいです!

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