5 ミニストーリア
肝心の皇太子、婚約者、男爵令嬢の出番はまだまだです。
脇というか、関係者から登場する、変わった構成になってます。
どうかお付き合いよろしくお願いします! みんな結構個性的です。
「ユーリ様に下心がないのはわかっているのですが、なさっている事は、まさしく、たらしのやる所業なのですよ」
ベルークの言葉に俺は唖然!
こんなの前世では当たり前。
SNS使ってメッセージをこまめに見て、すぐ送らなきゃ、コミュニケーションをとれないどころかボッチになる。
まあ、それでも俺はスマホ依存性気味の友人達と比べたら、いい加減な方だったのに。
いかん!
なまじ前世の記憶があるから、余計な事してしまったか?
俺は、ただただ地味に、平凡に暮らしたいたけなのに。
それほど生に執着はしてないが、それでも、今回はせめて、平均寿命くらいは生きていたいだけなのに。大切な人を守るために。
まあ、この世界の平均寿命がいくつなのか知らんが・・・
焦る俺にベルークはこう言った。
「でも、たらしで良かったじゃないですか。
今日の皇太子殿下のお誕生会での貴方のお振るまい、他の方でしたら、即アウト!でしたよ。
皇太子殿下が貴方に甘くて助かりました」
「うっっ、確かに・・・」
俺は今日の王城でのパーティーを思い出し、冷や汗が流れた。
今日は皇太子セブイレーブ殿下の二十歳の誕生日だった。で、お城でそれを祝うパーティーがあったのだが・・・・・
珍しく、皇太子の婚約者、エミリア=イオヌーンが時間になっても現れなかった。
あの糞真面目で、几帳面で、時間厳守の、あの従姉が遅刻だと? 婚約者の皇太子の誕生日パーティーに? ありえないだろ!
何かあったんじゃないかと、俺は酷く心配になった。事故にでも巻き込まれたじゃないか、それとも具合いでも急に悪くなったんじゃないかと。
ところか、あの阿呆な弟が、従姉を心配するどころか、大事な席に遅刻するとは何事だ! と、皇太子の側近の腰巾着どもと一緒になって、エミリアを批判していたのだ。
しかもその上、ファーストダンスの相手に、例の男爵令嬢を勧めている。
ホントにホントに馬鹿なのか!!
こういう社交場でのファーストダンスの相手は、婚約者か近親者って決まっているだろう!
婚約者のエミリアがいないなら、母親である皇后陛下だろ。それじゃなかったら、皇太子殿下の従妹のアピタール公爵令嬢とか。
さすがにあの時殿下は戸惑っていた。まだ、正常な判断力は少しは残っているようだった。
それなのに、弟だけじゃなく、姉のミニストーリアまで喚きだした。しかも、こちらはエミリア寄りの立ち位置で。
おいおい。
姉のミニストーリアは、エミリアと同じ年。二人は似たタイプだったので、幼い頃から何かっていうと競いあっていた。まあ、相乗効果で、お互いに切磋琢磨しあって、この国の女子の、ツートップと言われる存在になったのだが。
親戚の集まりでも、社交場でも、二人仲良くつるむって事は一切なかった。でも、お互いが気にしているのはバレバレだった。
母親であるお袋と義叔母は、そんな二人の姿をニヤニヤしながら見ていたが、余計な口出しはしなかった。
こんなとこは凄いなぁと思う。
前世の母親は、兄弟なんだから仲良くしなさい! 従兄弟同士なんだから仲良くしなさい! って、そりゃうるさかった。
たまたま血が繋がっているからって、誰も彼も仲良くできるわけないじゃないか!
殺人の犯人って、身内が圧倒的に多いんだぞ。血の繋りに拘って精神的に圧迫してるからじゃねーの?
もしもみんな仲良しという家庭に生まれたら、それはラッキー!
気の合わない家庭に生まれたら、それはアンラッキー! しかし、運が悪かったのは自分のせいじゃないのだから仕方がない。さっさと家族や肉親には見切りをつけて、距離をおき、血は繋がらないが気の合う奴を見つければいい・・・・
まあ、そんな簡単な話じゃないけど、そう考えるだけでも気持ちが楽になる。 前世の俺はそうだった。
それで現世ではどうかと言うと、まあ、俺はかなりラッキーの部類だろう。またもや中間子で、色々気を使うけど、かつてのように、両親から誕生日を忘れられた事はない。一度も・・・
あ、また現世の事情に話を戻すと、姉と従姉はいつもある程度の距離感を持って接していたが、最近急接近をしている。
そう、それはあの例の、男爵令嬢と皇太子の噂が出始めた頃からである。
自分が、唯一ライバルと認めているエミリア以外の女性に関心を持つ? ふざけんなよ、皇太子!
たかだか男爵令嬢で、顔も、スタイルも、頭も大した事ないじゃない! しかも、ダンスも、礼儀作法も全くなってない! それなのに、よく図々しく皇太子に近付けたわね!
(・・・姉、ミニストーリア談!!)
エミリアを軽んじられる事は、即ち自分も軽んじられる事と同じなんだろう。
でも、それだけじゃないような気もする。一緒にずっと頑張ってきた姿を知っているからこそ、ライバルに対してリスペクトしているんだろう。
しかし、そんなに周りが騒ぎ立てたら、余計エミリアの立場が悪くなるぞ!
これまでも何度も姉と弟に注意をしてきたが、その度に仲が悪いくせに同じ台詞を俺に放った!
「誰とも婚約していない半人前が、余計な事をいうな!」
だとさ・・・・・・
婚約さえしてれば、どんな奴も一人前なのか?
そもそも、弟のセブオンが婚約をしたのはつい半年前の事なんだが、色々訳有りなんだよね。本人には言わぬが花なんだけど。
・・・・・・・・・・・・・
両親は弟のセブオンには、ほとほと手を焼いていた。とにかく、人の意見や忠告を聞かない。
頭も力も能力もないのに、どうしたらそんなに自信満々でいられるのかがわからない。
このままでは、軍に志願し、身の程を知らないので、あっという間に無駄に戦死してしまうだろう。
いくら残念な息子だって、それはあまりに・・・・・
と悩んだ父親が親友のココッティ将軍に相談した。
すると、将軍は自分の娘婿にして、俺が面倒みてやろうと言ってくれた。
しかし、いくらなんでもそれは親友と彼の娘に申し訳ない、と即断ったらしい。
ところが、将軍はこう言ったんだそうだ。
「娘の事なら気にするな。あれも変わり者だから」
「変わり者とはどういう?」
父親が恐る恐る尋ねると、将軍はため息をつきながらこう言ったそうだ。
「駄目な奴を調教、あ、違う! しつけるのが好きなんだ。趣味というか」
「調教・・・・・確かにして欲しいかも・・・・・」
ってなことで弟セブオンは、我がコーンビニア王国の将軍大将であるココッティ伯爵のご令嬢、サンエット嬢の入婿になることが決まったのだ。
親父と同じく、いや、まさしくこれこそが究極の逆玉の輿!
あんな困り者の弟を引き取ってもらえる事になり、我がジェイド家は、ココッティ家の方角には足を向けては眠れません。本当に!!!