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48 ジェイド家の秘め事

 無自覚過ぎるユーリに痺れを切らした外野に続き、とうとう家族からも本音が漏れ始めます!

 ダイニングの席についた客人達は、同席者を見て驚いていた。

 ジェイド伯爵夫妻、長男のザーグルに彼の婚約者のアルビー嬢、長女ミニストーリア、末っ子イズミン、そして執事であるカスムーク、彼の息子で執事見習いのバーミントと本日の主役のべルークである。

 

 何故主人と使用人が一緒に晩餐をとるのだ? 野外パーティーならいざ知らず。

 客人達が戸惑っているのがわかって、(あるじ)の伯爵が言った。

 

「これから大事な作戦会議を開くのだろう? それなら皆一斉に食べた方が無駄がないだろう? 話も出来るし」

 

 確かに、とオルソーとジョルジオ氏は思った。彼らは、学生とはいえ軍関係者と元冒険者なので、何よりも合理性を大事にするため、すぐ納得した。

 

 しかし、多少ちゃらんぽらんとはいえ、伝統を重んじがちな騎士の家のエミストラはこれでいいのかと、公爵家出身の夫人と、社交界のツートップの片割れであるミニストーリアを見た。

 

 すると、金髪碧眼の美しい夫人は、ニッコリ微笑んで言った。

 

「カスムークさん一家は使用人というより我が家の最も大切な友人ですの。

 まぁ、信用のない方の前ではあまりこのような事はしませんけれど。カスムークさんの名誉の為に」

 

「軍関係者として我が家では、合理性が何よりも大事なんです」

 

 母親そっくりで美しいミニストーリアも平然とこう言い放った。

 

「君の伝統にとらわれない斬新な物の考え方って、どこからきてるのかよくわかったよ。俺がもし軍とか冒険者に進む場合は是非とも参考にさせてもらうよ」

 

 エミストラが俺の耳元でこう言ってきたので、どの道へ進もうと、基本、合理的思考は大事だと思うよ、と返してやった。

 

「セブオンはどうしたんですか?」

 

 セブオンが席にいないので、誰ともなしに聞いてみると、両親、兄姉は渋い顔をした。そしてまず兄が口を開いた。

 

「昨日の事をいくら注意しても謝らないし、反省しないんだ」

 

「いくら理論的に説明しても、あの子の頭では理解できないらしいの。このままでは、我が家の問題だけではなく、国の問題になってしまうから、恥を忍んで将軍様にお願いしたいと思っていたところ・・・」

 

 姉がここまで言って下を向くと、父がその後を継いだ。

 

「今朝、ユーリが登校したすぐ後で、アサトンがじきじきにセブオンを迎えにきてくれたのだ。今日から婿教育をしてくれるそうだ。しかし、成果がでなければ、あの話はなかった事にして欲しいと言われた」

 

「うっ、それは・・・・・」

 

 つまり破談! って事ですね。まあ、当然だろう。

 いくら将軍が人がよくても、お家断絶になりかねない事をしておいて、それがわからないような人間をそのまま婿にする筈がない。

 

 いや、是非とも破談にして下さい。ココッティ伯爵夫人や、御子息達に申し訳ない。もちろんサンエットにも。

 

 俺達の会話に客人達は驚き、身の置きどころを無くしていた。この話を自分達も聞いていてよいのかと。

 母もそれを察して、申し訳なさそうな顔をしてこう言った。


「お客様にこのような身内の恥をさらしてしまって申し訳ありません。ですが、ユーリの大切なご友人の皆様には、弟の事は知っておいて頂きたいのです。とにかく何をしでかすかわからないので。

 けして悪い子ではないのですが、一つ上の兄とは対照的に、現状把握能力に欠けておりますの。それなのに、軍人や騎士や冒険者になりたいと申しておりまして、本当に困っていますの」

 

「「「! ! !」」」

 

 三人が絶句した。それはそうだろう。武人として一番大事なスキルがないのに、それを目指しているというのだから。母のこの一言だけで、弟がどんな人間なのかを察したようだった。

 

 やがて、ジョルジオさんがこう言った。

 

「平民の私なんかが口出しするような事ではないのですが、一番の年長者として言わせて頂くなら、いざとなったら、私が面倒を見させて頂きますよ。

 武人になるには何も武力だけがあればいいという訳じゃないって事を、体でわからせてあげます。冒険者のパーティーにでも入れて」

 

 とても一番の年長者には見えないが、実年齢は八十歳を超えている元トップ冒険者で、我が国の英雄の一人の申し出に、俺達家族一同は深々と頭を下げたのだった。

 

 やがて晩餐が始まった。

 俺は食事をしながら、今日一日に起きた事をとりあえず、さらっと一通り話をした。

 

 北の詰所の話のくだりで、父は酷く不機嫌になり、兄は困ったように苦笑いをし、母はあらまあ!と驚き、姉は不思議そうな顔をした。

 

「ユーリ! 貴方いつの間にそんなに女性心理に詳しくなったの? 鈍いとばかり思っていたわ。だって・・・」

 

「ストップ! 姉上。お客様の前でそれ以上は言わないで下さいね」

 

 姉が何を言うのか察した俺は、姉の言葉を遮った。俺はまだ初恋も知らないうぶな少年で、婚約者もいないから女心がわからないと思っていた!と言いたいのだろう。いつものように。

 しかし、初恋ならとうに済ませてるよ。そしてそれを今日ついに実らせました!! この場では言えないけどね。

 まあ、俺の場合、恋人が出来たって、女心がわかる事とは全く関係ないんだけど。相手が女性じゃないんだから。

 

 すると、姉は急に真面目な顔をしてこう言った。

 

「ユーリ、そしてべルーク、昨日は本当にごめんなさいね。貴方達を危険な目に合わせてしまって。

 セブオンの事、一方的には責められないわ。本当は年長者の私がもっと冷静になって、周りの人達を宥めるべきだったのよね。そうすれば、ユーリがまだ表舞台に出る事はなかったのだもの。ごめんなさい、お父様、お母様、カスムークさん」

 

「・・・?・・・」

 

 俺は意味がわからずキョトンとした。すると、兄が苦笑いのまま言った。

 

「ユーリ、お前、今日お偉いさん達から聞かされたんだろう? 皇太子殿下の側近の話。俺達はその話を三年前から知っていて、お前には黙っていたんだよ。負担になるだろうと思って」

 

「三年も前からあんな馬鹿げた話が出てたんですか? 何故はっきり、俺にはそんな力なんてないと、言ってくださらなかったんですか?」

 

 突然家族からそんな秘め事を告白され、俺は戸惑った。

 

「三年前、癒しの魔剣の件で、陛下がお前に侯爵の地位を与えようとして下さった事があっただろう。最初あの話はアルビーとの結婚が条件付きだった。

 しかし、お前はそれを断った。ザーグルとアルビーが思い合っている事をお前は知っていたからだ。

 お前は結婚話がなくなった事で侯爵の話も無くなったと思ったのだろうが、実際は違うんだよ。

 兄の為に爵位授与を断った事で、更に陛下に気に入られてしまったんだ。そんな欲のないお前にこそ、皇太子の側にいて欲しいとね」

 

 と、父が言った。

 

「でもね、貴方はそれを嫌がると思ったわ。だから成人するまではその話は進めないように、(さいしょう)に頼んだの」

 

 と母が言った。すると、姉も深いため息をついてからこう言った。

 

「貴方は上手く自分の能力を隠しているつもりだったみたいだけど、私にだってばればれだったわ。貴方には飛び抜けた才能があるって事。

 それにそもそも、アーグスが我が家に通っていたのって、最初のうちは貴方に会う為だったのよ。叔父様のパーティーで紹介された時に貴方に興味を持ったんですって。

 それなのに、貴方から私とデートするように言われて驚いたそうよ」

 

「えーっ!」

 

「つまりユーリさんは、兄弟みんなのキューピットだったんですね。私達、ミニストーリアさん、セブオン君・・・本当にユーリさんは有能なだけでなく、兄弟思いの優しい方ですね」

 

 アルビーがこう言うと、客人達も次々とこう言った。

 

「「それに友人思い!」」

 

「冒険者、魔人思い!」

 

 

 お願いだからもう止めてくれ!!

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