4 ベルーク
4章で、ようやく主人公の名前がわかります。遅くなって、申し訳ありません!
ええと、今更なんだが自己紹介をしておこう。
俺の名前はユーリ=ジェイド、十六歳。最初に言ったように、伯爵家の五人兄弟、三番目の次男坊だ。
前世と同じく黒髪に黒い瞳。どうせ生まれ変わるなら、違う色になってみたかった。
前世の両親の若い頃は、茶髪や金髪が当たり前だったらしく、昔のアルバム見て笑った。東洋人の面で金髪って! 大昔のロッカーか?
俺の頃は、普通にみんなに黒髪だった。だからこそ、せっかく欧風な世界に生まれ変わったからには、違う色になりたかった。
とはいえ、うちは祖父も、親父も、兄貴も黒髪。姉貴と弟がお袋と同じ金髪。そして、末っ子の妹だけが、死んだ祖母と同じく派手なピンク色(漫画か?)。
しかも、この世界じゃ、金髪や茶髪、ブルネットの方が多くて、黒髪は少数派で人気がある。
あんなむっつりスケベそうな見た目の父が、名門公爵家の美人令嬢と逆玉の輿婚できたのも、あの黒髪のおかげかも?
まだ子供だった頃、そう父に尋ねたら、思いきり頭を小突かれた。母に聞けばよかった。
まあそれはともかく、二人は未だに仲がいい。そしてそれは子供として幸せな事だ。
じゃあ黒髪の俺がもてるか? と言えば、ビミョー!
顔の造形的には普通!
身長はまだ成長期だから、この先わからんが、まあ、平均くらい?
頭はそこそこいい。兄貴ほど優秀じゃないが、弟のような阿呆ではない。
運動能力も普通かな? ただ魔力無しを演じているので、父親と兄のアドバイスを受け入れ、剣術や武術の練習にはかなり励んでいるので、腕前はそれなりだ。
家柄はそこそこいいが、まあ、次男坊で爵位継げるわけじゃないから、うちと同等の家の養子の話が、たまにくるくらい。
俺の年くらいになると、すでに婚約してる者もいるが、俺は弟とは違ってスペア要員なので、今のところ、両親は様子見をしてるようだ。(弟は既に婚約済!)
ともかく、俺は魔力を持っている事を隠しているので、とにかく、平凡。
可もなく不可もなく、そこそこみんなとも仲良くやれているので、特に好かれてもいないだろうが、嫌われてもいないだろう。
いや、優等生で人望のある兄貴のおかげで、皇太子を始め、ヒエラルキーの上位メンバーには、意外とかわいがられている。
彼らにとって俺は、庇護欲をそそる弟キャラらしい。あれ?
もしかして、俺って、あの男爵令嬢ヒロインとキャラかぶり???
この緊急事態になって、突然、俺はとんでもない事に気が付いて焦った。すると、ベルークが鼻で笑った。
「ユーリ様、今頃それに気付かれたのですか? 貴方らしいと言えば貴方らしいですが・・・・・」
「どういう意味?」
「貴方は無自覚のたらしなんですよ。た・ら・し・・・・・」
「タラシ? そんなわけないだろう!」
俺は前世を含め、女子を誑かした事なんか一度もない!
そもそも姉貴を見てて、女の子と付き合いたいなんて、思える状況じゃなかった。
それは今も同じ! あの気位が高くて、面倒くさい姉上がいて、女の子に夢が持てると思うのか?
俺の憤懣やるかたない表情を見ても、ベルークのどうしようもない!っていう呆れ顔は変わらなかった。
「ユーリ様の場合、女子専門のタラシではなく、男女関係なく、無自覚で誑かしている『たらし』なので、さらに始末に負えないですね」
ベルークは、代々我が家の執事として仕えるカスムート男爵家の次男である。
年は俺より一つ下で、弟のセブオンと同じ十五歳。
魔力はないが、とにかく頭が切れる。一見クールだが、ハートは熱い。その上、栗色のウェーブヘアに薄水色の瞳、そして痩せマッチョの超イケメン!
両親は最初は弟の遊び相手にと考えていたようだが、なにせ、この二人は水と油! 犬と猿!
そりが合わないというか、全く相容れない仲だった。
しかし、俺との相性はピッタリだったので、今じゃ、俺にとって一番大事な親友で、よき理解者。学園に入る前から、大概一緒にいる。
俺の事なら誰よりも知っているくせに、何で俺をたらし呼ばわりするんだ!
「たらしはお前の方だろう。男女関係なく、山ほど恋文貰っているくせに!」
こう、俺が言ったら、あいつはさらっと言い放った。
「勝手に、一方的に送られてくるのです。僕の方から出した事は一度もありません。これはたらしとは言いません。
しかし、貴方はご自分から積極的にお渡ししているじゃないですか」
おいおい。渡してるって、ただのメッセージを書いたメモじゃないか!
「先程頂いたクッキーは大変美味しかったです。ありがとうございました。また、食べたいです」
「昨日はお芝居に連れて行って下さってありがとうございました。お芝居が楽しくて楽しくて、興奮して夕べはなかなか寝付けなかったです」
「先日勉強を教えて頂いたところが、バッチリテストに出ました。そのおかげで、高得点が取れました。本当に感謝しています」
「今日のご衣装はバッチリきまってますね! これなら文句なしです。告白、頑張って下さい」
「貴女が以前探しておられた鞄を、昨日、『イセターノ』のお店で見ました。一度覗いてみたらいかかでしょうか」
とか・・・・・
これって、ただのお礼! 感想! 応援! 情報提供! してるだけなんだけど。
みんなしてるだろう!!
人としての礼儀だろ!!!
長年の付き合いで、俺の言いたい事がわかったらしいベルークは、頷きながらも小さくため息をついた。
「ええ、ええ、わかってますよ。貴方はただ、お礼も、感想も、情報もその場で言いたいんですよね、相手の方のお気持ちを慮って。
だから、直接に言えない場合は、メモにメッセージを書いて、そっと手渡されているんですよね」
「そうそう。その場ですぐ相手の気持ちを聞けた方が嬉しいだろ? 後になって、書面に纏められた手紙より、正直な思いが伝わって。それに・・・」
「それに、僕や、相手の侍従の手を煩わせるのが嫌なんですよね。いくらそれが僕達の仕事なんだといっても。ハァー・・・・・」
やっぱりベルークはわかってくれてた。素直に嬉しい。
俺はいい人ぶるつもりはないし、ホント、下心なんて全くないんだ。
だって、野望も大志もないのに、おべっか使ったり、ゴマをする必要がどこにあるんだ?
毛嫌いされたり、恨まれるのはさすがに嫌だから、それは避けたいけれど、特に人から好かれたいわけでもない。
俺は、幼馴染みで親友のベルークにさえ嫌われなきゃ、それでいいんだ。