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26 護衛する者される者

とうとう、ユーリとベルークの関係にも微妙な変化が出てきます。

今後もお話も読んで頂けると嬉しいです。

 去年の秋祭りの日、俺とベルークは二人で遊びに行って、たまたまマリー嬢が踊っているところを目撃していた。

 

 その踊りは今まで見たことのないスタイルだったが、心を揺さぶる、情熱溢れるもので、他の観衆同様、俺達も酷く感動した。

 

 周りの群衆の会話を総合すると、彼女は『ワゴントレインピープル』と呼ばれる、一定の場所に定住せず、幌馬車で移動して暮らす集団のメンバーだった。

 

 しかし、両親が亡くなる前はここ、コーンビニア皇国の首都スコーリアに住み、秋祭りのダンス競技会の常連だったらしい。

 

 勿論、彼女はソロダンサーで、ソーシャルダンサーやフェスティバルダンサーではないため、競技者として出ていたわけではない。

 

 彼女は幼い頃から、ダンスの審査をしている間のエキシビションとして踊り、お金を稼いでいたらしい。

 しかし、そのうちに、競技会よりも彼女のダンスを見に来る人の方が増え、いつしか『マリー・クィーン』と呼ばれるようになったらしい。

 

 

「マリー嬢はあの時の『マリー・クィーン』だったんですね。道理で転入早々僕に話しかけてきたわけだ。

 僕の事を覚えていたんですね。

 こちらもそれに気付けていたら、もっと僕が上手く立ち回って、彼女に変な噂をたてずにすんだかも知れませんね。失敗しました。

 でも、あんなに変わっていたら気付けなくても仕方ないですよね?」

 

 ベルークが同意を求めるように見たので、俺も頷いた。

 確かに金色の髪と緑色の瞳は同じだが、この国じゃ一番メジャーな組み合わせだ。

 

 しかも去年はストレートのセミロングだったし、(へそ)出しのミニスカ姿だったんだ。

 ウェーブのかかったロングヘアにロングドレス姿(学校では裾長めのワンピ姿)の今の彼女を見て、同一人物だと気付く訳がない。

 

 俺とベルークのやり取りに、今度はイズミンが驚いた顔をした。

 

「お兄様達、庶民だった頃のマリー様を知っているの?」

 

「知っているというほどでもないよ。ただ、去年の秋祭りの時、暴漢に襲われかけたところを助けただけだ」

 

 ダンスの競技会を観戦した後、ぶらぶらと屋台を見て歩いていた時、突然悲鳴が聞こえたので、路地の方へ行ってみると、マリーが若い男に暴力をふるわれていたのだ。

 

 その男の顔に見覚えがあると思ったら、先程終わったダンス競技会で、準優勝したカップルの男性の方だった。

 何故? と一瞬疑問を抱いたが、その男が吐いた次の言葉でその理由がわかった。

 

「畜生、せっかく準優勝できたのに、お前のせいで目立たなかったじゃないか、どうしてくれるんだ!」

 

 俺達は呆れた。


「あんた、どこの田舎もんだ。マリー・クィーンを知らないなんて。あのダンス競技会はマリーのダンスのおまけなんだぜ!」

 

 ベルークがわざと煽るように、ハッタリをかまして相手の男を嘲った。

 

「なんだと!」

 

 男はマリー嬢から手を離すと、こちらに体を向けた。そして、ベルークの顔を見て一瞬その美しさに息を飲んだ。

 その隙を見逃さず俺はそいつの腹を蹴り上げた。そしてその男が蹲る直前、誰にもわからないように素早く、呪文無しの右指一本で、攻撃魔法を軽~くお見舞いしてやった。

 男はまさしくぐうの音も出ずに地面に転がった。

 ベルークが彼女の手を取り、俺達は人混みの中へ逃げ込んだのだった。

 

 

 イズミンは暫く目を大きく見開いて、あんぐりと口を開けて、俺達の話を聞いていた。しかしそのうちにピンク色の顔をだんだん赤く変化させていった。

 

 まずいぞ! これは怪獣イズミンに変身する前兆だ。しかし、何故? 何を怒っているんだ?

 

「護衛も付けず二人きりで祭りに出かけるなんて、一体何を考えているんですか!」

 

 えっ! 今更それ? 一年前の事なのに?

 

 とりあえず、あれは二人で身軽に出掛けたいと言った俺のせいだと、ベルークをかばおうとした時、イズミンがこう怒鳴った。

 

「お兄様がお強い事は十分知っています。でも、お祭りみたいに大勢の人がいる所なんて危険過ぎます!」

 

「この都の治安はいいと思うぞ」

 

「ええ、普段でしたらね。でも、お祭りの時は世界中から色々な人が集まって来るのでしょう?」

 

 確かにそうかも。

 今年は護衛付きでぞろぞろと行かなくちゃまずいかなぁと、俺が反省しかけた時だった。

 

「お兄様、お祭りに護衛なしでどうしても行きたい時は、どうかお一人で行って下さいね!」

 

「へ?」

 

 俺は間の抜けた声を出した。

 

「ですから、今年からはベルークを人混みの多い場所へは連れ出さないで下さいね! お兄様お一人ではベルークを守れないでしょう?」

 

「お嬢様!!」

 

 なんでベルークが俺をじゃなくて、俺がベルークを守る前提なんだ? 

 それに、確かにベルークは俺の護衛ではなく侍従だが、俺を守るために日頃から訓練をしていてかなり強いぞ。

 

「ベルークも確かに強いでしょうが、数人で襲ってこられたら抵抗できないでしょう? 

 ベルークはこの国一番と言っていい程の美人なんですよ。だからお兄様と違って、普段から大勢の人から狙われているんです。

 いい加減、お兄様もそれくらい気付いて下さらないと困りますね」

 

「・・・・・」

 

 今度は俺の方があんぐりと口を開けて固まった。

 

 数ヵ月前に、ベルークの事が好きなのではないか? と言ったらイズミンは怒りで震えていた。

 しかし、やっぱりあれは、隠していたい本当の気持ちを暴露されたから腹をたてたんじゃないのか? 

 ショックでパニクりながら俺がそう思った時、さっきまで怒り心頭だったイズミンが、何か良い事を思い付いたという顔をしてこう言った。

 

「マリー様はベルークに暴漢から助け出されて、それを覚えていて、今ベルークを慕っているのですよね?」

 

「慕ってくれているかどうかはわかりませんが、少しは頼ってくれていると思います」

 

「それならばちょうどいいじゃないですか。

 元々二人には噂があったというなら、この際ですからベルークにマリー様の恋人になってもらいましょうよ。

 そうすれば、今日パーティーで起こった問題を解決できるわ」

 

 イズミンはグッドアイデアとばかりにニッコリした。

 

「「 ・・・・・ 」」

 

 俺とベルークは驚き過ぎて、感嘆符さえ出てこなかった。

 何故ベルークがマリー嬢の恋人になると、今日の問題が解決するのだ?

 

 イズミンの説明はこうだ。

 

 皇太子殿下とエミリアの問題は後でおいおい対処する事にして、可及的に速やかに対策をしなければいけないのは、皇太子殿下とマリー嬢をくっ付けようとしている連中をどうにかする事だろうと。

 

 多分スウキーヤ男爵の本来の目的は、マリーを皇太子妃にする事ではないだろう。男爵家の娘では皇太子妃になれない事くらい普通わかるのだから。

 

 恐らくは愛人か側室狙いなんだろう。故に男爵は、今はマリーが皇太子のお近づきになれたらいい、それくらいの腹積もりだったに違いない。正妻をもらう前に愛人をつくる皇太子なんてそうそういないのだから。

 

 それなのに、それを察せないアホな落ちこぼれ高位貴族の子息達や、勘違い(セブオン)が、皇太子のファーストダンスの相手にしようと、勝手に画策したんだろう。

 

 あの父親の男爵がどうなろうと構わないが、マリー嬢まで咎めがあったら気の毒だ。それに、ユーリが皇太子の思い人に横恋慕してるなどと噂をたてられては一大事だ。

 

 そこで、マリー嬢は元々ベルークの恋人なのに、あの連中が勝手な事をした。

 二人の仲を知っている主のユーリが、それを阻止しようと動いた! という設定にしよう、とイズミンは言ったのだった。

 

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